日本フランス語フランス文学会春季大会ワークショップ
「ズボンをめぐる女たちの闘い」
《案内》2025年度日本フランス語フランス文学会春季大会で、「ズボンをめぐる女たちの闘い」というテーマで、ワークショップを行います。現在、クリスティーヌ・バール氏の『ズボンの政治史』を日本語に翻訳、出版の計画が進んでおり、その翻訳チームによる発表となります。その内容は下記の通りです。
アンジェ大学教授のクリスティーヌ・バール氏は、フェミニスト歴史学者で、主著にDictionnaire des féministes, France XIIIe siècle au XXIe siècle(PUF, 2017)、Une histoire politique du pantalon,(Seuil,
2010 /2014)などがある。氏は「⼥性解放」をめぐる企画展(2022年9⽉-2023年1⽉)をカルナヴァレ博物館で主宰し、2023年3⽉には⽇仏会館の招聘により⽇仏⼥性研究学会主催の国際⼥性デー記念シンポジウムでズボンの歴史とフェミニズム運動について講演した。Une histoire politique du pantalon が、1800 年制定の⼥性のズボン着⽤禁⽌条例の廃⽌(2013 年1 ⽉)を政府に促すきっかけとなったことは、フランスのメディアでも⼤きく取り上げられた。今回、我々はバール⽒のUne histoire politique du pantalon の翻訳を⼿がけ、アンスティチュ・フランセの翻訳出版助成を得て、法政大学出版局から刊行(『ズボンの政治史』)の予定となっている。
①新實五穂(お茶の水大学准教授)「警察条例と女性の異性装」:19世紀のフランスでは、服装を介して性や職業、⾝分を偽る⾏為は、法令で禁じられていた。特にパリ警視庁が1800 年11 ⽉7⽇に発令した警察条例は、健康上の理由から医者に特別な許可を得た場合を除き、⼥性が異性装をする⾏為を禁じたものだ。違反者は警察に逮捕され、罰⾦刑や五⽇以下の拘留刑に処せられたとされる。本発表では、パリ警視庁に「異性装」の項⽬で所蔵されている資料にはどのような内容のものがあるのかについて明らかにし、警察条例が発令されている状況下で、⼥性による異性装がいかなる理由で⾏われたのかを考察する。そして⼥性による異性装の動機には、社会的な制約に基づく受動的な側⾯があったことを⾔及したい。
②村⽥京子(大阪府立大学名誉教授)「男装の画家ローザ・ボヌール」:ローザ・ボヌール(1822-1899)は、フランスのみならず、ヨーロッパやアメリカでも⾼い評価を得た⼥性画家である。19世紀当時の⼥性画家の⼤半が肖像画や静物画、⾵俗画など「家庭の領域」に属するものを題材とした⼩さなサイズの絵を描いたのとは異なり、ボヌールは動物画家として、畑を耕す⾺や⽜、野⽣動物を⼤きなカンバスにダイナミックに描き出し、批評家からは「男性的な逞しさ」に溢れていると評された。さらに彼⼥はズボンを穿いた画家としても有名で、警察が発⾏した彼⼥の「異性装許可証」が残されている。なぜ彼⼥がズボンを穿いたのか、その理由を探ると同時に、家⽗⻑的なフランス社会において、⼥性の連帯を⽬指した彼⼥の⽣き⽅に焦点を当てていきたい。
③西尾治子(日仏女性研究学会代表)「ジョルジュ・サンドの異性装文学:性を装うヒロインたちの表象」:サンドは、男性の専売特許とされていた都市空間にズボンとフロックコート姿で現れ社会的禁忌に挑戦し、バルベイ・ドールヴィイやゴンクール兄弟、ドーミエから « Les Bas-bleus »と揶揄された。されど、サンドの「異性装文学」(Bard、Une histoire politique du pantalon, p.189)には、社会のくびきに抗する異性装の女性たちが登場する。本発表では、サンドがパリ警視庁発行の異性装許可証なしで男装をした理由を哲学小説『スピリィディオン』に探るとともに、初期作品群に前景化されている異性装の女性たちの表象を浮き彫りにしたい。
開催日: | 2025年6月1日(日)9時~11時 |
場所 | 青山学院大学青山キャンパス |
コーディネーター | 吉川佳英子 愛知工業大学教授 |
アンジェ大学教授のクリスティーヌ・バール氏は、フェミニスト歴史学者で、主著にDictionnaire des féministes, France XIIIe siècle au XXIe siècle(PUF, 2017)、Une histoire politique du pantalon,(Seuil,
2010 /2014)などがある。氏は「⼥性解放」をめぐる企画展(2022年9⽉-2023年1⽉)をカルナヴァレ博物館で主宰し、2023年3⽉には⽇仏会館の招聘により⽇仏⼥性研究学会主催の国際⼥性デー記念シンポジウムでズボンの歴史とフェミニズム運動について講演した。Une histoire politique du pantalon が、1800 年制定の⼥性のズボン着⽤禁⽌条例の廃⽌(2013 年1 ⽉)を政府に促すきっかけとなったことは、フランスのメディアでも⼤きく取り上げられた。今回、我々はバール⽒のUne histoire politique du pantalon の翻訳を⼿がけ、アンスティチュ・フランセの翻訳出版助成を得て、法政大学出版局から刊行(『ズボンの政治史』)の予定となっている。
①新實五穂(お茶の水大学准教授)「警察条例と女性の異性装」:19世紀のフランスでは、服装を介して性や職業、⾝分を偽る⾏為は、法令で禁じられていた。特にパリ警視庁が1800 年11 ⽉7⽇に発令した警察条例は、健康上の理由から医者に特別な許可を得た場合を除き、⼥性が異性装をする⾏為を禁じたものだ。違反者は警察に逮捕され、罰⾦刑や五⽇以下の拘留刑に処せられたとされる。本発表では、パリ警視庁に「異性装」の項⽬で所蔵されている資料にはどのような内容のものがあるのかについて明らかにし、警察条例が発令されている状況下で、⼥性による異性装がいかなる理由で⾏われたのかを考察する。そして⼥性による異性装の動機には、社会的な制約に基づく受動的な側⾯があったことを⾔及したい。
②村⽥京子(大阪府立大学名誉教授)「男装の画家ローザ・ボヌール」:ローザ・ボヌール(1822-1899)は、フランスのみならず、ヨーロッパやアメリカでも⾼い評価を得た⼥性画家である。19世紀当時の⼥性画家の⼤半が肖像画や静物画、⾵俗画など「家庭の領域」に属するものを題材とした⼩さなサイズの絵を描いたのとは異なり、ボヌールは動物画家として、畑を耕す⾺や⽜、野⽣動物を⼤きなカンバスにダイナミックに描き出し、批評家からは「男性的な逞しさ」に溢れていると評された。さらに彼⼥はズボンを穿いた画家としても有名で、警察が発⾏した彼⼥の「異性装許可証」が残されている。なぜ彼⼥がズボンを穿いたのか、その理由を探ると同時に、家⽗⻑的なフランス社会において、⼥性の連帯を⽬指した彼⼥の⽣き⽅に焦点を当てていきたい。
③西尾治子(日仏女性研究学会代表)「ジョルジュ・サンドの異性装文学:性を装うヒロインたちの表象」:サンドは、男性の専売特許とされていた都市空間にズボンとフロックコート姿で現れ社会的禁忌に挑戦し、バルベイ・ドールヴィイやゴンクール兄弟、ドーミエから « Les Bas-bleus »と揶揄された。されど、サンドの「異性装文学」(Bard、Une histoire politique du pantalon, p.189)には、社会のくびきに抗する異性装の女性たちが登場する。本発表では、サンドがパリ警視庁発行の異性装許可証なしで男装をした理由を哲学小説『スピリィディオン』に探るとともに、初期作品群に前景化されている異性装の女性たちの表象を浮き彫りにしたい。