日本フランス語フランス文学2025年度秋季大会「ワークショップ」
『人間喜劇』全訳版刊行プロジェクト始動にあたって
《案内》日本フランス語フランス文学会2025年秋季大会において、下記のワークショップを開催いたします。
「この た び バ ル ザ ッ ク の 『 人 間 喜 劇 』 の 全 訳 版 の 翻 訳 が 水 声 社 か ら 刊 行 さ れ る こ と に な った 。 こ れ ま で も 「 バ ル ザ ッ ク 全 集 」 の 試 み は あ っ た が 、『 人 間 喜 劇 』 の 全 て の 作 品 を 網 羅す る も の で は な く 、 ま た 配 列 も 翻 訳 者 あ る い は 出 版 社 の 意 図 に よ る 恣 意 的 な も の で あ った 。 今 回 の 『 人 間 喜 劇 』 全 訳 版 は 、 バ ル ザ ッ ク 自 身 が 構 想 し た 1845 年 の 作 品 カ タ ロ グ およ び そ の 後 の 作 者 自 身 に よ る 修 正 に 基 づ く も の で 、 未 完 作 品 や 構 想 の み の 作 品 も カ タ ロ グの 順 序 通 り に 配 置 し 、 バ ル ザ ッ ク の 専 門 家 に よ る 解 題 を 加 えて い る 。 ま た こ の 全 集 で は 、バ ル ザ ッ ク 自 身 が 執 筆 し た 、 あ る い は 他 の 著 者 に 直 接 指 示 して 執 筆 さ せ た 序 ⽂ な ど を 収 録して い る こ と も ⼤ き な 特 徴 で あ る 。
本 ワ ー ク シ ョ ッ プ で は 、『 人 間 喜 劇 』 全 訳 版 刊 行 と い う 壮 ⼤ な プロ ジ ェ ク ト を 始 め る に
あ た り 、 プロ ジ ェ ク ト 責 任 編 集 者 の 一 人 で あ る 柏 木 隆 雄 、 バ ル ザ ッ ク の 作 品 群 を 構 成 す る各 情 景 ・ 研 究 の 編 集 担 当 者 ( 松 村 博 史 、 村 田 京 子 、 鎌 田 隆 行 ) が こ の 全 集 の 編 集 方 針 の 説明 と 、 そ の 意 義 に つ い て 明 ら か に す る つ も り で あ る 。
全 体 の 構 成 と して は 最 初 に 、 松 村 が イ ン ト ロ ダク シ ョ ン と して 作 家 バ ル ザ ッ ク に お け る
全 集 の 意 味 に つ い て 説 明 し 、 次 に 柏 木 が こ れ ま で の ⽇ 本 に お け る バ ル ザ ッ ク の 翻 訳 を 振 り返 り 、 今 回 の 全 訳 版 の 意 義 を 説 明 す る 。 村 田 は バ ル ザ ッ ク の 作 品 に お け る 序 ⽂ の 機 能 に つい て 分 析 し 、 鎌 田 は 未 完 作 品 群 が 『 人 間 喜 劇 』 の 形 成 に い か に 寄 与 し た か を 解 説 す る 。 会場 の 参 加 者 か ら も 貴 重 な 質 問 や 意 見 を 頂 戴 し 、 活 発 な デ ィ ス カ ッ シ ョ ン が 行 わ れ る こ と を期 待 して い る 。」(ワークショップ要旨集より)
日時:10月26日(日)9時~11時
コーディネーター:松村博史(近畿大学)
パネリスト:柏木隆雄(大阪大学・大手前大学名誉教授)、村田京子(大阪府立大学名誉教授)、鎌田隆行(信州大学)
大会については、学会HP(https://www.sjllf.org/taikai)をご参照ください。
《報告》冷たい雨の降る寒い一日でしたが、朝早くから多くの方々に参加していただきました。まず、松村先生から今回の『人間喜劇』全集が、バルザックが作成した「人間喜劇カタログ」通りの順番で小説が配置されていること、さらに未刊および未完に終わったテクストにも言及していること、バルザック自身による序文を取り上げていることなど、本全集の特色の説明がありました。次に柏木先生からは、日本におけるこれまでのバルザックの翻訳、バルザック選集についてのお話がありました。その後、村田が、ジェラール・ジュネットの『スイユ』における分析に基づき、バルザックの作品の序文がどのような機能を果たしているのかを分析しました。とりわけバルザックは、自分の作品が「不道徳」だと批判されることに敏感で、『人間喜劇』には、「不義を犯した女」よりも「有徳の女」の方が数が多いとして、具体的に登場人物の名前を挙げているのが印象に残りました。最後に鎌田先生が未完作品群を通して、バルザックがどのような小説大系を目指していたのかを、幾つかの例を通して分析されました。バルザックの「軍隊生活情景」は、23作品予定されていたのが、たった2作品しか完成できず、未完の作品のタイトルを見ると、ナポレオンの戦役が中心になっていて、バルザックはやはり、ナポレオンへの憧憬が強いロマン主義世代の作家だと改めて思いました。
発表の後、質疑応答になりましたが、いろいろな質問が出た中でも際立っていたのが、この出版不況の時代にバルザックの『人間喜劇』の143作品を完訳することへの驚きで、果たして売れるのかという危惧も感じられました。その意味でも、この企画を立ち上げてくださった水声社に感謝の気持ちで一杯です。あまり専門的にならずに読みやすい訳を目指していきたいと思います。11月から刊行予定(毎月1冊ずつ刊行)で、第1巻は、820頁という大著となっています!
| 開催日: | 2025年10月26日(日)9時~11時 |
| 場所 | 愛知大学名古屋キャンパス |
| コーディネーター | 松村博史 近畿大学教授 |
「この た び バ ル ザ ッ ク の 『 人 間 喜 劇 』 の 全 訳 版 の 翻 訳 が 水 声 社 か ら 刊 行 さ れ る こ と に な った 。 こ れ ま で も 「 バ ル ザ ッ ク 全 集 」 の 試 み は あ っ た が 、『 人 間 喜 劇 』 の 全 て の 作 品 を 網 羅す る も の で は な く 、 ま た 配 列 も 翻 訳 者 あ る い は 出 版 社 の 意 図 に よ る 恣 意 的 な も の で あ った 。 今 回 の 『 人 間 喜 劇 』 全 訳 版 は 、 バ ル ザ ッ ク 自 身 が 構 想 し た 1845 年 の 作 品 カ タ ロ グ およ び そ の 後 の 作 者 自 身 に よ る 修 正 に 基 づ く も の で 、 未 完 作 品 や 構 想 の み の 作 品 も カ タ ロ グの 順 序 通 り に 配 置 し 、 バ ル ザ ッ ク の 専 門 家 に よ る 解 題 を 加 えて い る 。 ま た こ の 全 集 で は 、バ ル ザ ッ ク 自 身 が 執 筆 し た 、 あ る い は 他 の 著 者 に 直 接 指 示 して 執 筆 さ せ た 序 ⽂ な ど を 収 録して い る こ と も ⼤ き な 特 徴 で あ る 。
本 ワ ー ク シ ョ ッ プ で は 、『 人 間 喜 劇 』 全 訳 版 刊 行 と い う 壮 ⼤ な プロ ジ ェ ク ト を 始 め る に
あ た り 、 プロ ジ ェ ク ト 責 任 編 集 者 の 一 人 で あ る 柏 木 隆 雄 、 バ ル ザ ッ ク の 作 品 群 を 構 成 す る各 情 景 ・ 研 究 の 編 集 担 当 者 ( 松 村 博 史 、 村 田 京 子 、 鎌 田 隆 行 ) が こ の 全 集 の 編 集 方 針 の 説明 と 、 そ の 意 義 に つ い て 明 ら か に す る つ も り で あ る 。
全 体 の 構 成 と して は 最 初 に 、 松 村 が イ ン ト ロ ダク シ ョ ン と して 作 家 バ ル ザ ッ ク に お け る
全 集 の 意 味 に つ い て 説 明 し 、 次 に 柏 木 が こ れ ま で の ⽇ 本 に お け る バ ル ザ ッ ク の 翻 訳 を 振 り返 り 、 今 回 の 全 訳 版 の 意 義 を 説 明 す る 。 村 田 は バ ル ザ ッ ク の 作 品 に お け る 序 ⽂ の 機 能 に つい て 分 析 し 、 鎌 田 は 未 完 作 品 群 が 『 人 間 喜 劇 』 の 形 成 に い か に 寄 与 し た か を 解 説 す る 。 会場 の 参 加 者 か ら も 貴 重 な 質 問 や 意 見 を 頂 戴 し 、 活 発 な デ ィ ス カ ッ シ ョ ン が 行 わ れ る こ と を期 待 して い る 。」(ワークショップ要旨集より)
日時:10月26日(日)9時~11時
コーディネーター:松村博史(近畿大学)
パネリスト:柏木隆雄(大阪大学・大手前大学名誉教授)、村田京子(大阪府立大学名誉教授)、鎌田隆行(信州大学)
大会については、学会HP(https://www.sjllf.org/taikai)をご参照ください。
《報告》冷たい雨の降る寒い一日でしたが、朝早くから多くの方々に参加していただきました。まず、松村先生から今回の『人間喜劇』全集が、バルザックが作成した「人間喜劇カタログ」通りの順番で小説が配置されていること、さらに未刊および未完に終わったテクストにも言及していること、バルザック自身による序文を取り上げていることなど、本全集の特色の説明がありました。次に柏木先生からは、日本におけるこれまでのバルザックの翻訳、バルザック選集についてのお話がありました。その後、村田が、ジェラール・ジュネットの『スイユ』における分析に基づき、バルザックの作品の序文がどのような機能を果たしているのかを分析しました。とりわけバルザックは、自分の作品が「不道徳」だと批判されることに敏感で、『人間喜劇』には、「不義を犯した女」よりも「有徳の女」の方が数が多いとして、具体的に登場人物の名前を挙げているのが印象に残りました。最後に鎌田先生が未完作品群を通して、バルザックがどのような小説大系を目指していたのかを、幾つかの例を通して分析されました。バルザックの「軍隊生活情景」は、23作品予定されていたのが、たった2作品しか完成できず、未完の作品のタイトルを見ると、ナポレオンの戦役が中心になっていて、バルザックはやはり、ナポレオンへの憧憬が強いロマン主義世代の作家だと改めて思いました。発表の後、質疑応答になりましたが、いろいろな質問が出た中でも際立っていたのが、この出版不況の時代にバルザックの『人間喜劇』の143作品を完訳することへの驚きで、果たして売れるのかという危惧も感じられました。その意味でも、この企画を立ち上げてくださった水声社に感謝の気持ちで一杯です。あまり専門的にならずに読みやすい訳を目指していきたいと思います。11月から刊行予定(毎月1冊ずつ刊行)で、第1巻は、820頁という大著となっています!