村田京子のホームページ – 日仏春秋講座
日仏春秋講座
「歴史のなかの女と暴力――日仏の事例から」
開催日: 2025年10月3日(金)18時~20時
場所 日仏会館
コーディネーター 澤田直 立教大学名誉教授
《案内》女性に対するさまざまなレベルでのすさまじい暴力は現在にいたるまで、世界各地でやむことなく続いています。身体的暴行、心理的攻撃、経済的圧迫、性的強要など、時代や地域によって、そのあり方は多様ですが、女性の問題を語るときに暴力の問題は避けて通ることができないほど本質的だと言ってよいでしょう。なぜ、このような人権侵害が根絶されるどころか、いまなお広まっているのでしょうか。この大きな問題を日仏の歴史的事例から、ジェンダー問題に詳しい歴史家シルヴィ・スタインベルグ氏と横山百合子氏が、フランス文学者村田京子氏の司会で、考察します。(日仏会館HPより)

講師:シルヴィ・スタインベルグ 社会科学高等研究院教授

横山百合子 国立歴史民俗博物館名誉教授

村田は、司会役を務めることになっています。詳細は日仏会館HP(https://www.fmfj.or.jp/events/20251003.html)をご参照ください。

《報告》まず、スタインベルグ先生から近世フランスにおける性暴力の歴史についてのお話がありました。まずは、裁判記録などをもとにアンシャン・レジーム期の「強姦 (viol)」という言葉が、女性の意思に反して、男性が暴力によって強要した性行為を指し、被害者は女性に限られていること(被害者の大半が少女や結婚前の女性)を明らかにされました。身体的暴力によらないものは、司法では「誘惑(séduction)」「拉致(rapt)」と別の言葉で呼ばれていたこと、男性に対する性暴力はソドミー、すなわち神の掟に背いた罪(péché)として、別の次元での刑罰が科されたというご指摘は、非常に興味深いものでした。また、裁判記録にある犯罪事件の中で、強姦事件が少ないのは、被害者が法廷で強姦を告発しにくかっただけではなく、裁判よりも司祭や公証人の仲介によって、当事者同士の結婚や、子どもの養育費の支払いなど賠償を求める示談が多かったためとされています。さらに、近世社会では性暴力は、女性個人の尊厳を侵害するだけではなく、家族や共同体の名誉にも関わっていることなど、様々な視点からの示唆に富むご発表でした。

次に、横山先生が日本の性売買の歴史の中で、江戸時代の幕府公認の吉原遊郭を取り上げ、暴力との関連を探るご発表をされました。吉原の遊女たちが人身売買の対象となり、過酷な折檻を受けるなど、暴力を受けていたにもかかわらず、遊郭が近世社会に特有の自律的な身分集団(男性主体の集団)という性格を持つがゆえに、暴力が不可視化されてきたことを明らかにされました。とりわけ、遊女の序列化(値段の高い順番に遊女をリストにした「吉原細見」など)は、遊女たちの競争を煽り、遊女を精神的に管理し抑圧する道具になったと指摘されました。さらに遊女を描いた浮世絵や、花魁道中など華やかな催しも同じ役割を果たしているとされ、吉原遊郭を文化の場として肯定的に捉える見方に警鐘を鳴らすと同時に、文化の持つ暴力性に言及されました。

お二人のお話の後、お二人同士での質疑応答、会場の参加者との質疑応答がなされ、活発な意見交換がありました。時間が2時間と限られていたため、もう少し論議を進めたいところで時間切れになったのは、少し残念でしたが、「暴力」と「歴史」について考える有意義な一日でした。

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