村田京子のホームページ – 『モードで読み解くフランス文学』、水声社、2023年

総頁数352頁+別丁カラー図版16頁(出版社サイト:http://www.suiseisha.net/blog/?p=18887

表紙【目次】

【概略】作家たちは服装の記号を駆使していかに作品を描いたのか?

前著『イメージで読み解くフランス文学』では、19世紀フランス文学を作品と密接に関連する絵画・彫像と結びつけながら、ジェンダーの視点で考察した。とりわけゾラの『ナナ』や『獲物の分け前』では、女主人公の着る服装は社会的記号となっていた。本書は、その続編として、絵画など美術作品とも連関させながら、モードの観点から文学作品を読み解く試みとなっている。

19世紀は、モード史の観点から見て、服装に大きな変化をもたらした時代であった。フランス革命前のアンシャン・レジーム下では、服装はその形状・質・色が身分別に法律で定められ、とりわけシルクやレース、貴金属など贅沢な装飾品は特権階級のみに許されていた。革命後は「服装の自由」が政令によって明文化され、理論的には誰でも自由に服装を選べるようになった。したがって、服装にこだわりを持つダンディたちを顧客とする高級仕立屋が現れ、女性服に関しても19世紀後半にはオートクチュールの祖、ウォルトが登場する。衣料品店の形態に関しても、従来の薄暗い店舗から明るく大きなショーウィンドーを持ち、色とりどりの布地が美しく並べられた「マガザン・ド・ヌヴォテ」が出現し、さらに第二帝政期にはデパートが誕生する。こうした変化を忠実に反映したのが、同時代の文学先品である。したがって、本書では、19世紀フランス文学を服装やモードを通して、社会的・歴史的・文化的観点およびジェンダーの視点から読み解いた。

第一章では、フランス革命末期の反革命運動を扱ったバルザックの『ふくろう党』を取り上げ、服装と革命の関わりを明らかにしている。第二章では、ジョルジュ・サンドの『アンディヤナ』において、女主人公の服装や変装に焦点を当て、女性作家の視点に立った服装描写の分析を行った。第三章では、バルザックの『幻滅』において、地方とパリの風俗の違いを、服装を通して検証すると同時に、バルザックのダンディズムについて考察した。第四章では、バルザックの『骨董室』と『カディニャン公妃の秘密』に登場する「モードの女王」が、服装の記号を駆使し、どのような女性を演じたのかを検証した。第五章では、エドモン・ド・ゴンクールの『シェリ』を取り上げ、第二帝政期の上流社会(オートクチュールの世界)に生きる女主人公の少女時代から19歳の若さで死ぬまでの成長過程を、服装を通して辿った。第六章では、ゾラの『ボヌール・デ・ダム百貨店』において、デパートがいかに女性の欲望を煽り、買い物熱を掻き立ていくか、その基盤となる「女性の搾取」に焦点を当てて分析した。

以上のような考察によって、時代とともに移り変わるモードを19世紀の作家がどのように捉えていたか、多少なりとも把握できたように思う。さらに、第二章では「ズボンを巡る争い」に触れたが、フランスにおいて女性がズボンを穿く権利を正式に獲得するには、長い年月が必要であった。女性にズボンを穿くことを禁じた1800年の警察条例が廃止されたのは、つい最近(2013年)のことである。このように、服装の問題は19世紀に留まらず、現代にも深く関わるテーマで、本書がこうした問題を考えるきっかけとなれば、幸いである。

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