村田京子のホームページ – ミニシンポジウム「文学とジェンダー」の開催
「文学とジェンダー」ミニシンポジム(人間社会システム研究科人間社会学専攻人間科学分野、共同研究)
「文学とジェンダー」
開催日: 2018年10月31日(水)
場所 大阪府立大学なかもずキャンパスA15棟2階中会議室
コーディネーター 村田京子
《案内》今年度の共同研究プロジェクト「文学とジェンダー」ミニシンポジウムを下記の通り、開催いたします。今回は日本文学専門の教員が男女を入れ替えて育てる『とりかへばや物語』を、中国文学専門の教員が明末清初めに活躍した有名な妓女についての話をします。関心のある方は、ふるってご参加下さい(詳細は ポスターを参照のこと)。

2時~3時:       青木賜鶴子 「『とりかへばや物語』の女君と男君」

3時10分~4時10分:   大平桂一  「柳如是と錢謙益―明末清初の愛の形―」

4時20分~5時:    自由討論

《報告》秋晴れの中、行楽日和にも関わらず、大勢の方々が参加して下さいました。まず、青木先生(写真)が平安時代末に書かれたとされる『とりかへばや物語』について、お話されました。室内で「絵を描き、雛遊びや貝覆い」のような女の子の遊びが好きな「男君」と、外で「(蹴)鞠や小弓」で遊び、男の学問である「漢詩」や男の楽器「笛」(女は「琴」)を嗜む「女君」が男女入れ替わって、それぞれ元服、裳着の儀式をして若君(実は女君)は右大臣の娘「四の君」と結婚させられる、という話で女君の視点が主流となっているそうです。結婚生活の中でいつ女であることがばれるのか、が焦点となり、読者のハラハラ感を高めるのがこの話のみそ。プレイボーイの「宰相の中将」が登場して、「四の君」ばかりか「女君」も妊娠する、というややこしい筋の後、「女君」は本来の女に戻って最後は帝に見染められて后となる、という結末。4巻本のうち、最後の4巻目(女に戻って出世をする)は話としてはつまらないとのこと。確かに、男女入れ替わりが独創的で、現代の男女入れ替わりの物語の原点と言えます。冒頭は、現代でいう「トランスジェンダー」―男(女)の体をしているのに、心は女(男)―とも重なり、非常に興味深いのですが、ただ最後は女に戻って、「后」となる、というのは果たして彼女にとって幸福なのか、と疑問に思ってしまいます。本当は「男」のように自由に行動したかったのではないか、と思うのですが、平安時代では到底無理な話と言えるでしょう。

次に大平先生(写真)が中国の明末から清にかけて生きた柳如是と錢謙益の恋愛についての話をされました。柳如是は10歳の時に妓楼に売られ、そこで高い教養を身につけた、美貌と教養で有名な妓女だそうです。当時のランクの高い妓女は、吉原の花魁のように、妓楼に閉じ込められるのではなく、自分で船をチャーターして身請け先を探す、というのが非常に面白かったです。しかも財産、身分を調査した上で、漢詩を相手に送って「誘惑」するというのは、平安時代に身分の高い男女が交わす和歌と同じ役割を果たしている点で興味深いものでした。その漢詩(漢代の名儒馬融や謝安の名を挙げ、錢謙益の方が彼らよりも優れていると褒めている)の出来が素晴らしく、それに驚嘆した錢謙益の応答の詩も洒落ていて、二人が恋仲になる、というもの。特に錢謙益が遠く離れた柳に送った詩は、有名な唐の玄宗と楊貴妃の華清宮での入浴にちなんだもので、「第二湯」に浸かる玄宗が楊貴妃が体を洗った「第一湯」からの湯を受けて恍惚となったように、自分は柳の入る「第一湯」の湯を受けたいものだという性愛の欲望が描かれています。二人が出会ったのは柳(28歳)に対して錢はすでに60歳代で、年齢差はありながら(やはり、柳のような妓女に釣り合う身分の高い男性というと年齢が高くなるそうです)、二人には女の子も生まれ、本当に愛し合っていたようです。しかし、錢謙益の死後、柳は遺産相続の争いに巻き込まれ、46歳で自殺してしまう、という不幸な人生を辿っています。これは、フランスでも絶世の美女ディアーヌ・ド・ポワチエがアンリ2世に見染められて恋人となり、シュノンソー城を贈られたものの、アンリ2世が急死した後、正妻のカトリーヌ・ド・メディシスに城を取り上げられるのと似ているかもしれません。

お二人のお話の後、様々な質問、意見が活発に出て時間をオーバーするほどで、大盛況のうちに終わりました(参加者45名)。

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