村田京子のホームページ – オペラ映画「フィガロの結婚」

ポスターオペラ映画「フィガロの結婚」を見に行きました(ポスター)。1976年のドイツ映画ということで、少し古い映画ですが、フィガロ役:ヘルマン・スライ、スザンナ役:ミレッラ・フレーニ、アルマヴィーヴァ伯爵役:フィッシャー=ディスカウ、伯爵夫人役:キリ・テ・カナワという最高のオペラ歌手に、演奏はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、カール・ベーム指揮というもの。原作者はフランスの作家ボーマルシェで、モーツァルトが音楽をつけた傑作で、モーツァルト作品の中で最高の上演回数を誇っているものです。

物語は、アルマヴィーヴァ伯爵の従僕フィガロと小間使いのスザンナの婚礼の日が近づいた時、伯爵が昔の領主の特権「初夜権」を復活させてスザンナを自分の物にしようと画策しているのを、スザンナとフィガロがいかに阻止するか、そして伯爵が他の女ばかり追いかけまわすのを悲しく思う伯爵夫人が何とかして昔の夫の愛を取り戻すか、ということと、フィガロに金を貸したマルチェリーナが彼に結婚を迫って訴えたり、小姓のケルビーノが伯爵夫人やスザンナに言い寄って騒動を引き起こす、といった事件が重なり合い、はちゃめちゃなまま大団円を迎える、というもの。モーツァルトの美しい曲とオペラ歌手たちの素晴らしい歌唱力に酔いしれました。

原作者のボーマルシェはフランス革命直前のフランス社会に対して痛烈な批判や皮肉を浴びせています。IMG_0001モーツァルトのオペラ(ダ・ポンテ脚本)はそうした社会批判を薄めているものの、アルマヴィーヴァ伯爵の好色ぶり、その理不尽な要求、妻への不実は特権階級への批判となっています。伯爵役のフィッシャー=ディスカウ(写真)は、気品のある顔立ちながら、その目つきで好色ぶりを示すなど、演技力も一流でした。フィガロ役のスライは、庶民の逞しい力を表しています。スザンナと伯爵夫人の二重唱も非常に美しいものでした。とりわけ「フィガロ」で特徴的なのは、社会的に優位に立つ男たちを女たちがやり込めるという筋書きです。「セビリアの理髪師」では、才気あふれるフィガロの活躍ぶりが目立ちましたが、「フィガロ」ではむしろ、彼の婚約者スザンナが積極的に動き、伯爵ばかりかフィガロも彼女と伯爵夫人の計略に翻弄される受け身の立場に立っています。音楽で印象に残ったのは、二重唱や三重唱、さらには六重唱の場面があることで、それぞれの感情(愛情、反感、密かに復讐を誓うなど)を少しずつ重ねて歌うところ。映画ならではなのは、心の内を歌う時は、口を開けないままで、声だけが音楽として流れていました。これは舞台ではできないものでした。また、ケルビーノは少年ですが、女性のメゾ・ソプラノ歌手が演じるズボン役(途中で、女装の場面もあり)で、この作品の主要人物は男二人(フィガロ、アルマヴィーヴァ伯爵)に対して女三人(スザンナ、伯爵夫人、ケルビーノ)と数の上でも女性優位のオペラでした。

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