村田京子のホームページ – オペラ『椿姫』

IMG_0001京の新国立劇場でオペラ『椿姫』(ポスター)の公演を見てきました。アレクサンドル・デュマ・フィスの小説『椿姫』は出版されるやベストセラーになり、劇場でもお芝居として演じられます。それを見た作曲家のヴェルディが『ラ・トラヴィアータ(道を踏み外した女)』というタイトルに変えてオペラにした作品です。初演の時は評判が芳しくなかったものの、後に内容を少し変えて上演し、成功への道を築くことになります。小説の『椿姫』では、「椿姫」ことマルグリットの死に際に恋人のアルマンは間に合わず、彼の妹の縁談と、彼自身のためにアルマンの父親から説得されて彼女が身を引いたことをその死後に分かって、後悔するという筋立てでした。それに対して、芝居では彼女の臨終の場面に彼と父親が駆けつけ、彼女の真意を知って謝る形に変わっています。マルグリットの裏切りを知ったアルマンが怒って彼女に札束を投げつける、というのも戯曲のシナリオで付け加わり、オペラは戯曲版をもとに作られています。しかも、公衆の面前でマルグリットに札束を投げつけたアルマンの行為は、周りの者だけではなく父親からも激しく非難される、という場面など、かなり道徳臭が強くなっています(小説では、マルグリットが屈辱的な目に合わされるだけに留まっています)。ブルジョワ道徳が重んじられる19世紀当時とすれば、お芝居やオペラでは道徳的な面が強められても仕方ないのかもしれません。

アルマンの父親が故郷の純真な娘(アルマンの妹)のためにアルマンと別れてくれ、と懇願する場面では、マルグリットのアルマンへの愛が真実のものであるとわかった上での説得で、しかも単に別れるのではなく、彼に未練を残さないためにも元の娼婦生活に戻るよう頼むと父親の態度は、ブルジョワのエゴが露わになるところです。ただ、オペラのこの場面のヴィオレッタ(マルグリット)と父親ジェルモンとのデュエットは素晴らしくて非常に印象に残りました。最初はアルフレード(アルマン)への愛を諦められない、と歌っていたヴィオレッタが次第にジェルモンの「天使のように清純な妹のために」という声に重なり、最後には父親の声が響き渡ってヴィオレッタが別れを決意する、というところは圧巻でした。ヴィオレッタ役のソプラノ歌手中村恵理の歌唱力、演技とも素晴らしかったばかりか、ジェルモン役のバリトン歌手グルターボ・カスティーリョの声が圧倒的で、アルフレード役のテノール、リッカルド・デッラ・シュッカを凌駕している気がしました(拍手も男性陣としては、カスティーリョの方が大きかったような気がします)。第一幕では有名な<乾杯の歌>が聞けましたし、ヴィオレッタのアリア<不思議だわ! 花から花へ」も聞かせどころでした。

IMG_0002今回の公演では舞台衣装にも凝ったそうで、衣装担当はヴァンサン・ブサール。「椿姫」の衣装(赤紫のドレスに緑のスカートが覗いている)も良かったですが、「椿姫」の同業者のクルチザンヌ、フローラの衣装(左写真)が白い小花を散らしたようで素敵でした。私もモードとクルチザンヌとの関係について、プログラムに解説を書くよう頼まれ、文章を載せました(解説)。舞台装置も宴会の場面は非常に華やかで、さらにマルグリートの部屋などは、左側面に鏡が巡らされていて、人物の姿が映る(前と後ろ)も斬新でした。

こうした本格的なオペラが常設劇場で度々上演されるのは東京に限られ、関西ではなかなか見れないのは残念な限りです。また、オペラの本場、ヨーロッパに行ってみたいと思いました(円安のこの頃ではなかなか難しいですが。。。)

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