村田京子のホームページ – 日仏女性研究学会「表象の会」
日仏女性研究学会「表象の会」
2023年度第2回研究会
開催日: 2024年3月30日(土)10時~12時
場所 東京ウィメンズプラザ&オンライン
コーディネーター 西尾治子 日仏女性研究学会代表
《案内》今年2月に刊行されたばかりの著書『働く女たちの肖像』(現代書館)の著者、永澤桂さんが、下記のテーマで発表を行う予定です。興味のある方は次のサイトからお申込み下さい(https://sites.google.com/view/sfjefemmes/#h.dq7anz7e8koh)(参加は無料)

報告者:永澤桂(女子美術大学・横浜国立大学非常勤講師):「美術とジェンダー:労働する女性の表象―お針子、バレエ・ダンサーを中心に―」

コメンテーター:村田京子(大阪府立大学名誉教授)

司会:西尾治子(日仏女性研究学会代表)

発表要旨:17世紀から19世紀において、女性たちの営みは、当時の社会規範である「良妻賢母」の枠組みのなかで大きく制限されていました。女性たちには、主に家庭内での仕事である家事や育児、家政が期待されていましたが、その中でも針仕事は特に重要とされていました。一方で、縫製業に携わる女性や、バレエ・ダンサーなど労働者階級の女性たちにも、当時の男性による「視点」から、芸術の領域においてさまざまに表象されました。特にお針子は「グリゼット」として知られますが、しばしば売春業と関連付けられました。また、貧しい階層出身のバレエ・ダンサーは、副業として影の世界に身を置くこともありました。男性画家たちは、当時の社会的偏見やジェンダー観念に影響されながら、こうした働く女性たちをどのように描写したのでしょうか。女性の労働を描いている彼らの作品には、社会の裏側に潜む現実を見逃すことなく捉えているものがあります。本発表では、特にお針子やバレーダンサーに焦点を当て、これらの女性たちの仕事の裏にある側面を、印象派の巨匠たちの絵画を通して探求し、ジェンダーの視点から解釈します。また、知られざる画家・ヴュイヤールの作品など、日本では、一般的に親しまれていない絵画も紹介いたします。

《報告》永澤さんは、主に19世紀フランスの絵画において「働く女性」がどのように描かれているのか、女子教育や当時の社会的背景を考慮に入れながら、ジェンダーの視点から丁寧に分析されました。良妻賢母を目指す女子教育において、針仕事が重要な位置を占めることを18世紀のシャルダンの絵画をもとに話をされた後、19世紀後半のカイユボットの《田舎の肖像》を取り上げられました。カイユボットの絵には4人の女性が描かれ、3人が針仕事、1人が読書をしていて、19世紀当時、読書をする女性は「怠惰」とみなされてきたが、この絵では針仕事と読書が同価値に位置付けられているとのことでした。また、ドガの《舞台稽古》などで描かれる踊り子は低賃金のため売春を余儀なくされ、「見られる客体(欲望の対象」となり、踊り子を見る男性は「見る主体(欲望・支配の眼差し)」となっていること、さらに踊り子に付き添う母親は娘を売り出す存在として描かれていることを明らかにされました。また、縫製業に女性たちに関しては、「グリゼット(お針子)」は「性の対象」と見なされていたが、19世紀末のヴュイヤールの絵ではお針子たちが真剣に働く様子が肯定的に描かれていて、新しい視点が見出せる、とのことでした。その他にもドガのアイロンをかける洗濯女など、労働者階級の女性を描いた絵画の紹介がありました。

私からのコメントとしては、カイユボットの読書をしている女性が老女であり、読書が「怠惰の象徴」「危険」であるのは若い娘にとってではないか、という指摘をしました。また、ドガの踊り子の絵では、永澤さんも著書で指摘しているように、踊り子の顔が「猿のように」醜く描かれており、それは「劣った存在」だとドガ自身が思っているためだとされているが、それはドガの女性蔑視の表れではないか、と指摘しました。それに対して、「性を売り物にしている女性」へのドガの冷たい視線だというお答えでした。最後にヴュイヤールの女性の労働者を肯定的に描く絵は、彼自身の母親が経営する縫製工房で母と姉の仕事を描いている、という特殊な家庭環境のせいではないか、「時代の先取り」であるが、一般的に女性労働者を肯定的に描くようになるのは、いつ頃か、という質問をしました。それについてはまだ明確ではないそうです。会場からもいろいろな質問が出て、非常に有意義な報告会であったと思います。

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