村田京子のホームページ – 不染鉄展

_Fusen_A4_front奈良県立美術館で「漂白の画家 不染鉄」展(ポスター)が開催されているので、見に行ってきました。不染鉄は明治生まれの画家で、日本画家のもとで学び、現在の京都市立芸術大学を首席で卒業して、画家の道に進みました。ただ、戦後は奈良・正強高校の校長に就任し、画壇とは距離を置きながら画家として独自の道を進んだとのこと。「郷愁漂う村落風景」「悠然とたたずむ富士の眺望」「神聖な古寺の景観」を描いた絵や、幻想的な風景、彼の理想郷などが描かれています。ポスターの絵は《山海図絵(伊豆の追憶)》で、一時、漁師をしていた伊豆の海が前景に描かれ、後景に富士山が聳え立っていますが、山の背後にも家が並んでいて、遠近法的には少しおかしい不思議な絵となっています。不染の描く家はすべて、茶色い藁ぶきの屋根の四角い家で、この家が彼の原点なのでしょう。彼の殆どの絵は茶色の色調がベースで、海も少し緑がかった茶色となっています。海に浮かぶ岩はごつごつしたもので、海に浮かぶ白い帆の小舟も度々描かれています。

思い出の記《思出之記(田園部)》(右図)では、絵筆のタッチがものすごく細かく、後景は恐らく奈良の薬師寺ではないかと思われます。家や木々は非常に細かく丁寧に描かれていますが、田んぼ落葉浄土や道は少しぼやけていて、筆を水平にさっと動かして描いたようなイメージ。手前に文字が書かれていますが、文字が小さすぎて裸眼では読めない状態です(不染は絵葉書を友人にたくさん送っていますが、そこに書かれた字もものすごく小さくて、さぞかし読むのに苦労したのでは、と思われます)。また、彼の理想郷を描いた《落葉浄土》(左図)には、家の門の前に仁王像が二体、立っていて今にも動きそうですし、お堂には様々な菩薩が並べられていますが、建物の一番左奥の部屋には和尚さんと小僧が向かい合って座っています。現実世界に垣間見える幻想空間のような感じで、とても気に入りました。

不染鉄はこれまで知らなかった画家で、この展覧会で初めて彼の作品に接しました。一見、地味だがよく見ると精緻な描写で不思議な世界が描かれていて感銘を受けました。ちなみに彼は、上村松園の息子で花鳥画で有名な上村松篁と仲が良かったそうです。

 

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