村田京子のホームページ – 福岡アジア美術館

水俣病九州大学での仏文学会に出席したついでに、福岡アジア美術館を訪れました。特別展としては「水俣展」(パンフレット)がありました。パンフレットの写真の少年は「一家全員水俣病で家庭は崩壊したが、純粋無垢な笑顔を絶やさなかった胎児性水俣病の半永一光」ということで、その「無垢な笑顔」が痛々しく感じられます。「水俣展」では、水俣病発生の経過、被害者の苦しむ姿やメチル水銀を垂れ流したチッソ水俣工場との法廷闘争などが年代順に展示されていました。チッソ側の隠蔽工作には当時の科学者や政治家も関わり、水俣病の原因が工場にあることが長年否定されてきたこと、さらに患者たちが村八分にあうなど、いかに迫害されてきたかが、さまざまな写真や資料によって明らかになっています。特に印象に残ったのは、女性患者がけいれんを起こし、苦しみながら「天皇陛下万歳!」と繰り返し叫んでいる姿(天皇が患者たちの見舞いに訪れたことへの感謝の現れ)でした。恨み言を言わずに死んでいったその姿は、本当に哀れでした。また、500人もの患者の遺影がずらっと壁一面に並んでいる様子も、心に迫ってくるものがありました。こうした公害の被害者が今後、出ないことを祈るばかりです。

アジア美術もう一つ、スペシャル企画として「福岡アジア美術館ベストコレクション」(パンフレット)の展示がありました。アジアの選りすぐりのアーティストたちの作品が展示されていました。その中で特に印象に残ったのは女リン性アーティストの作品で、一つはリン・ティエンミャオの《卵 ♯3》(左写真)で、出産直後の作家を撮影した写真に、大小の糸玉が幾つも繋がっていて、それは女性が排卵する卵子を意味しているそうです。家父長社会において女性に課せられた妊娠・出産・育児という役割が、いかに束縛的なものであるかを表している、とのこと。もう一つの作品は、インドのナリニ・マラニの《略奪された岸辺》(右下写真)で、ドイツのミュラーの戯曲(ギリシア悲劇『メディア』を現代的に再解釈したもの)の舞台背景として制作されたそうです。左から右へと物語が紡がれていきますが、左のパネルには西洋から船に乗ってきた植民者の男(イアソン)が描かれています。次の2つのパネルでは、イアソンと愛を交わしたメディアは自分の国では女王でも、イアソンには束縛され、虐げられマラニる被植民者でしかないことが描かれています。ギリシア神話では、彼女を裏切ったイアソンへの復讐のためにメディアは二人の間にできた子どもを殺しますが、マラニの絵では、イアソンの血を受け継ぐ子どもを殺すことで、イアソンの束縛を断ち、解放されるという解釈になっています。さらに、最後の2枚のパネルには、ムンバイの暴動の凄惨な情景が描き込まれているそうです。西洋古代の復讐劇を通して、植民者(西洋文明)によって浸食され、暴力、破壊の対象となったインドを表すと同時に、男の暴力によって支配される女性の姿も浮き彫りになっています。どちらの作品も「父権制によって束縛される女性」をテーマにしていますが、同時に女性の力強さ、エネルギーも感じさせるものでした。

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