パリには何世紀も前に遡る昔ながらの建築物が残っている界隈もあれば、新しく蘇って建て替えられ、新名所となるものも混在しています。例えば、18世紀に遡るパサージュ(ガラス屋根に覆われたアーケード街)がいまだに残っていて、そのうちの幾つかを訪れました。切手などが売られているパサージュ・パノラマ、市松模様の床のギャルリー・ヴェロ・ドタ(左写真)、グレヴァン蝋人形館(残念ながら、中に入る時間はありませんでした。次回の楽しみです)のあるパサージュ・ジュフォロワ(右写真)など、狭い路地にテーブル、椅子が所狭しと並べられ、レトロ感に溢れて今にも19世紀の人々が店から出てきそうな気がしました。
また、オテル・ド・ヴィル(パリ市庁舎)近くの映画館 Luminor(右下写真)で、バルザックの『カディニャン公妃の秘密』を見ましたが、この映画館は何と1912年にできた老舗の映画館でした。この映画(左下写真)は、ちょうど9月13日にフランスで封切られたばかりで、女 優のアリエル・ドンバルがプロデューサー兼主演を演じている映画です(作者のバルザック自身も登場しています)。粗筋は、王政復古時代に浮名を流したカディニャン公妃が36歳になって過去を振り返り、これまで真に愛したことがないと、友人のデスパール夫人に告白する場面から始まり、公妃に騎士道的な愛を捧げて死んでいったクレチアンを偲びつつ、彼の親友であった作家のダニエル・ダルテスとの愛を育む、という話。王政復古時代の彼女の華やかな生活(『骨董室』に描かれている)が回想シーンで出てきて、それとコントラストをなす現在の質素な彼女の姿が描かれています。ただ、小説の中ではダルテスを引きつけるための公妃の手管(念入りに用意した衣装のおかげで10歳は若返って見える)が詳細に描かれていましたが、映画では主役のドンバルがどう見ても老けて見える(後で調べると70歳とか!)ので、いくら純情でも40代のダルテスを魅惑する役どころには無理があるように思えました。ダルテス役は舞台でも人気のあるセドリック・カーン、デスパール侯爵夫人がジュリー・ドパルデューでイメージにぴったり合い、ラスティニャックやデグリニョン役の俳優もなかなかハンサムで、19世紀当時のパリの雰囲気が良く描かれていました。それだけに主役のアリエル・ドンバルが少し残念でした(ドンバルはさすが、女優だけあって70歳には見えませんでしたが、せめて20~30年前に主役ならば良かったのですが)。ともあれ、古い情緒のある映画館(残念ながら廃業の危機にあるとか)でバルザックの映画が見れて良い思い出となりました。
一方で、パリの新名所なったのがブルス・ド・コメルス(左写真)で、19世紀の証券取引所を改造して、実業家のフランソワ・ピノー(美術品収集家でもある)が美術館として再生することにし、日本の建築家、安藤忠雄に設計を依頼した建物です。オリジナルの円形の建物はそのまま残し、建物内は白一色、壁の装飾画もそのまま残しています(右写真)。一番上の階の手すりには鳩が集団となって止まっているように見えましたが、これは作り物の鳩! 会場内には現代アートが展示され、韓国系アメリカ人のAnicka Yiのランタン(左写真)や、Cy Twomblyの絵(右写真)などが展示されていました。サイ・トンブリは非常に有名で、美術を専攻する者には憧れの画家で、色の配置など熟慮され尽くされた絵ということですが、素人眼には幼児の描いた絵にも見えます。このあたりが、現代アートがいまだに私には理解できない理由となっています。ただ、フランスの優れた点は、文化予算を日本の何倍も使い、様々な国の芸術家たちに奨学金を与え、保護していることです。日本も文化大国を目指すならば、文化面にも、もっとお金を使ってもらいたいものです。