村田京子のホームページ – クリスティーヌ・バール先生の講演会

IMG_0001奈良女子大学で開催されたクリスティーヌ・バール アンジェ大学教授の講演会『カルナヴァレ歴史博物館企画展示:パリの女市民たち!女性解放のための動き(1789-2000年)』(ポスター)に参加しました。バール氏は昨年9月から今年1月まで、カルナヴァレ博物館で開催された特別展 Parisiennes citoyenees! を企画し、フランス革命から2000年に至る211年間のパリの女性たちの政治的・社会的・文化的活動を表す文献や絵画、写真などの展示に関わってこられました。美術展の入場者は9万人にのぼり、そのうち8割が女性だったとのこと。まず、美術館・博物館において女性がマイノリティであること(美術館のカタログなどでも男性芸術家およびその作品が90%以上を占めている。カルナヴァレの特別展でも写真家カルティエ・ブレソンや作家プルーストについては、単独の展覧会が開かれているのに対して、女性の場合、今回のように複数の女性たちにまとめられている)を指摘され、バール氏はフランスで初めて女性のための博物館をアンジェ大学に創設したそうです。

特別展のために選んだイメージ(作品)の一Gerda_Wegener_portrait_de_Lili_Elbe_1922部は、68年以降のフェミニズム運動をよく表すジェンダーの境界侵犯を表すもので、Gerda Wegnenerが描いた彼女の夫 Lily Elbeの肖像画(右図)[性転換手術を受けて女性になった最初の男性]がその典型となっています。それと同時に、母性・母親役割も蔑ろにはせず、分娩の苦痛から免れるための「無痛分娩」などを取り上げています。女性たちは昔から妊娠中絶の苦痛を味わってきたが、誰もそれについて言及することはなかった、戦争や拷問、処刑など残酷な場面が絵画の題材となってきたのに、中絶を扱った作品は美術館で一つも見出せない、というアニー・エルノー(昨年の文学ノーベル賞受賞者)の言葉をバール氏は引用されましたIMG_0001が、確かにその通りであることに今更ながら愕然としました(聖母子像は無数にあるのですが)。また、本企画展は、これまで不可視化されてきた女性たち、匿名の女性たちの集団に光を当てるもので、例えば黒人女性や女性労働者たち、娼婦、身体的にハンディのある女性たち、レジスタンス運動に参加した女性たちの写真や彼女たちが残した物も展示しているとのこと。さらに、19世紀のサン=シモン主義の女性がズボンを穿いている図像(左図)は、女性の解放を目指すサン=シモン主義の象徴とみなされてきたが、実際はサン=シモン主義を揶揄する芝居のための衣装に過ぎず、彼女たちは権力の象徴としてのズボンを穿くことはなかったというのが、非常に印象的でした(可愛いデザインなのですが、嘲笑的な場面で使われていたことになります)。政治的分野では、パリテ法(男女同数の候補者の義務化)により、女性議員の数は飛躍的に伸びたが、市長や大統領など政治の要職にはなかなかつけていないことが課題として挙げられました。

バール氏のお話でショッキングだったのが1999年にパリの有名レストラン「フーケッツ」で女性二人の入店が「男性のエスコートがない」という理由が断られたこと!女性だけだと男の客を漁りに来た「娼婦」とみなされる、という古い考えがいまだに残っていることに驚きを禁じえませんでした(店はフェミニストの抗議を受けて謝罪するのですが。。。)

s-IMG_5240以上のように、様々な領域にまたがるパリ女性の女性解放運動が多くの図像を伴ってわかりやすくまとめられ、非常に面白い講演会でした(写真は、講演中のバール氏)。企画展は大好評を博し、苦情としてはあまりにも資料が多すぎてきちんと見るには何時間もかかる、といったものだけだったとのこと。企画側としては、極右勢力からの批判を恐れたそうですが、それは全くなかったそうです。美術展の解説は感情的な表現を避け、事実だけを述べるに留めたことがその理由ではないか、とのこと。できればパリで特別展を直に見たかったと残念に思いましたが、さっそくカタログを取り寄せました。バール氏は講演に先立ち、東大寺や興福寺を訪れるなど奈良見物をし、また、京都では雪の金閣寺を見ることができて素晴らしかったと感想を述べられるなど、初めての日本訪問を心から楽しんでおられました。

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