村田京子のホームページ – 国際女性デー2023記念シンポジウム
国際女性デー2023記念シンポジウム
「女性と表象:服飾、モード、ジェンダー」
開催日: 2023年3月4日(土)14時~18時30分
場所 日仏会館(東京)1階ホール
コーディネーター 日仏女性研究学会主催
《案内》国際女性デー2023記念シンポジウム(ポスター)を下記の通り、開催します(以下、「女性情報ファイル」136号より抜粋)。

アンジェ大学教授で歴史家のChristine Bard氏は、フランスの女性史やフェミニズムに関する著書を数多く出版しておられ、その代表作がUne histoire politique du pantalon (Seuil, 2010, 2014) となっています。本書においてバール氏は、1800年にフランスで制定された女性のズボン着用禁止条例がいまだに存続していたという歴史的事実を明らかにし、政府に本条例の廃止(2013年1月31日)を促すきっかけを作りました。さらに、現在、パリ・カルナヴァレ歴史博物館にて好評開催中の「展覧会 女性市民の闘いの歴史」の主宰者としても活躍されています。

本シンポジウム「女性と表象:服飾、モード、ジェンダー」では、まず、バール氏に「ズボンの政治史 (1789-2022)」と題する基調講演を行なっていただきます。フランスの服飾史において、コルセットを脱ぎ、ズボンを穿いた時から女性は自由と自立を獲得したとみなされています。本講演では、ズボンの歴史とフェミニズム運動との緊密な関係について論じていただく予定です。

第一部「服飾とモード:フランス文学における女性表象と社会」では、女性が服飾を通してどのように表象されていたのか、近現代の文学作品を通して検証します。まず、村田京子氏の発表「ゾラの『ボヌール・デ・ダム百貨店』における「女性の搾取」―「頭のないマネキン人形」―」では、エミール・ゾラの作品を取り上げます。デパートは大衆消費社会の出現によって誕生し、女性たちの服飾品への購買欲を掻き立てましたが、本発表では、デパートによる「女性の搾取」をゾラがどのように描いているのかを分析します。次に、吉川佳英子氏の発表「コレットにおける身体の表象―男装、舞台での身体表現、そして書くということ―」では、コレットの作品群を取り上げ、女性作家の同性愛的傾向を視野に入れながら、男装、舞台衣装や身体表現、言語表現について論じます。

第二部「服飾のイメージをめぐる男性性・女性性」では、フランス革命を経た後の服飾史において大きな転換点となった19世紀に焦点を当て、まず、ダンサーの衣装に注目した発表を丹羽晶子氏と渡辺采香氏が行います。丹羽氏の発表「19世紀後半における男装をした女性ダンサーの役割とイメージ」では、パリ・オペラ座における女性バレエダンサーが男装することで、どのような役割を与えられ、どのようなイメージを付与されたかを分析します。次に、渡辺氏の発表「19世紀フランスにおけるオリエントの女性ダンサー表象にみるズボン」では、オリエント(中東・北アフリカ)の女性ダンサーを取り上げ、フランス人作家たちのオリエント旅行記において、ズボン姿の彼女たちがどのように捉えられているかを探ります。最後に、新實五穂氏の発表「19世紀フランスにおける男児服と初めてのズボン」では、男児が初めて着用するズボンという主題をめぐり、「男らしさ」を創出し、構築する通過儀礼としての男性性と主体性の確立の問題を浮き彫りにします。

第三部のパネルディスカッションでは、基調講演および、第一部、第二部で考察した服飾とジェンダー、女性表象に関する現代にもつながる諸問題について、パネラーの間で意見交換を行うとともに、会場の方々からのご感想や質問に丁寧に答えることで、議論を深めていきたいと考えています。

コロナ後に初めて開催する対面式のシンポジウムであることから、プログラムには4時間半という余裕をもたせた時間設定をしており、参加者数は70名に限定されてはいるものの、大規模なシンポジウムとなることが予想されます。多くの会員の皆様やお知り合いの方々にご参加いただき、コロナ禍での長い間の忍耐を解消すべく、暖かい交流の場となることを切望しております。

使用言語:日本語、フランス語(同時通訳付き) 参加費:無料

要事前申し込み:https://www.mfj.gr.jp/agenda/2023/03/04/2023-03-04_colloque_femme/index_ja.php

詳細はフライヤーおよびプログラムをご参照下さい。

《報告》3月初めの少し肌寒いながらも、日中は春を思わせる天気の中、国際シンポジウムが開催されました。現地開催は3年ぶりで、100名近くの方がわざわざ足を運んで下さいました(定員は70名だったのですが、日仏会館のご好意で、椅子の距離を適度に離しながらも、収容人数ぎりぎりまで入って頂くことが可能となりました)。

バール先生の基調講演では、フランス革命後、男性たちが華やかな装いをすることを断念し、画一化された地味な服を着るようになり、女性が専ら贅沢で華やかな衣装を着ることになったこと、その一方で女性の「開いた服」(=スカート)は女性の「傷つきやすさ」「性的に自由に近づけること」を表し、「閉じた服」(=ズボン)は、男性の「力」や「権威」の象徴となったこと、そして女性たちがズボンを穿くことはジェンダー規範に反していたことを明らかにされました。フランスのフェミニストたちは、ズボンを穿く権利を求めて長い間、闘ってきたことになります。第一部において村田は、ゾラの『ボヌール・デ・ダム百貨店』で描かれる「女性の搾取」を、作中に何度も言及される「頭のないマネキン人形」を軸に分析し、「頭のないマネキン人形」は当時のジェンダー観に基づいた女性全体を表していることを明らかにしました。次に吉川氏がコレットの奔放な生き方(男装や、パントマイムの舞台での大胆な振舞いなど)および、彼女の作品における身体性との深い関わり、動物との共感を、クリステヴァなどの批評家の言説を通して浮き彫りにしました。

第二部の丹羽氏の発表では、ロマンティック・バレエの隆盛で男性ダンサーの数が減少し、女性が男役を演じざるを得なくなったこと、しかし、あくまでも容姿端麗な女性が男役を演じ、観客も女性として見ていたこと、したがって、女性がズボンを穿いて踊ってもジェンダー違反とはみなされなかったいきさつの説明がありました。次の渡辺氏の発表では、18世紀にはオリエントの女性たちの穿くゆったりしたズボンをポンパドゥール夫人など上流階級の女性たちが自宅でくつろぐ時に穿いていたが、19世紀にオリエンタリズムが流行すると、オリエントの女性たちはその「官能性」によってヨーロッパ人男性の欲望の対象となったこと、しかし、フランスの作家の旅行記でも女性のルイーズ・コレの場合、二人のダンサー(母と娘)の結びつきの深さに注目していることに、男性作家との視点の違いがあることを指摘しました。最後に新實氏の発表では、男の子が成長していく過程で、母親の庇護の下にある幼児の頃はスカートをはいていたのが、7歳頃になって父親を模範とする「男」になっていく時、スカートからズボン(キュロット)にとって代わられること、言い換えれば、ズボンを穿くことが「男」になるための通過儀礼であることを、19世紀当時の育児書や子ども向けの本を通して明らかにしました。

第三部では、村田がまず、「開いた服」と「閉じた服」の対立は特にフランスにおいて大きなものだが、渡辺氏の発表にあったように、オリエントではズボンを穿く女性は男の権利の簒奪者とはみなされていないこと、日本でも明治時代までは男も女も着物(「開いた服」)を着ていて、「開いた服」「閉じた服」の対立がフランスほどないこと、について質問をしました。バール先生の答えはやはり、地域によって考え方が違う、というものでした。会場からも様々な質問が出て、1時間の質疑応答もあっという間に過ぎてしまいました。服装、モードについていろいろ考える機会を持ち、非常に有意義な一日でした。

シンポジウムの後、登壇者、司会者、学会スタッフの方々と少人数で、豆腐専門の居酒屋で夕食をご一緒しました(写真)。ここでも、日仏の考えの違いなどについて話が盛り上がりましたが、バール先生、豆腐料理が気に入ったようで、舌鼓を打っておられました(コンビニのおにぎりも気に入られたとか)。

シンポジウム報告(女性情報ファイル137号

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