村田京子のホームページ – シャンソン研究会
シャンソン研究会
第36回シャンソン研究会
開催日: 2022年11月19日(土)14時~17時30分
場所 信州大学人文学部第4講義室
コーディネーター 吉田正明 信州大学教授
《案内》久しぶりに対面でのシャンソン研究会が信州大学で開催の予定です。今回は、シャンソン研究会の有志で出版予定の論文集『シャンソン・フランセーズの諸相と魅力― 民衆文化の花束 ―』に村田が寄稿する19世紀フランスのオペラ歌手ポリーヌ・ヴィアルドについて話をする予定です。ヴィアルドは19世紀ヨーロッパにおいて、20世紀のマリア・カラスに匹敵するほど有名なオペラ歌手ですが、日本ではほとんど知られていません。さらにピアニストのリストやショパン、作家のジョルジュ・サンド、ツルゲーネフとも親しく交流しました。1848年の二月革命や1870年の普仏戦争など、動乱のフランス社会を生きた彼女の生きざまを探っていきます。関心のある方は、是非ご参加下さい。

1)14:10~15:00(司会 鈴木球子 信州大学講師)

高岡優希(大阪大学非常勤講師):「ポール・エコールPaul École — 現代シャンソンの新しき語り部」

2)15:10~16:00(司会 青柳りさ 金沢美術工芸大学教授)

村田京子(大阪府立大学名誉教授):「19世紀フランスの歌姫ポリーヌ・ヴィアルド」

3)16:10~17:00(司会 吉田正明 信州大学教授)

本間千尋(東京藝術大学教育研究助手):「シャンソンにおける疫病と噂-1832年パリの場合-」

《報告》木々も紅葉し、晩秋の信州大学に行ってきました。朝晩、かなり冷え込むと聞いて服を着こんで行きましたが、思ったほどは寒くなくほっとしました(ただ、夜は冷え込んで手が少しかじかむほど)。まず、恒例の高岡氏の発表では、フランスの人気歌手カロジェロやクリストフ・マエ、パトリック・ブリュエルの歌詞を提供している作詞家ポール・エコールの紹介がありました。エコールは、カロジェロの「花火」の歌詞の作者ですが、カロジェロが2016年7月14日にニースで起きた同時多発テロを追悼する式典でこの歌を歌い、非常に評判になります。それによって、作詞家のエコールの名も一挙に広がったそうです。「月の明かりに (Au clair de la lune)」という曲は、多くの子どもの歌や童話が下敷きになっていて、その出典探しをするのが楽しく、歌詞の中にはcarabineで「カラビン銃」と妖精の名前がかけられ、次の句のcanonも「大砲」と音楽の「カノン」の二重の意味があるなど、言葉遊びが非常に面白い曲です。また、クリストフ・マエとの共作では、歌のタイトルLes gens(人々)の発音(ジュ)という音が歌詞のあちこちに繰り返し用いられていました(とうてい日本語には訳しきれないところです)。高岡氏の発表は、いつも現代の新しいシャンソンを紹介してくれ、そうした曲を聞くのをいつも楽しみにしています。

次に村田が19世紀のヨーロッパで一世を風靡したオペラ歌手ポリーヌ・ヴィアルドの生涯を辿りました。ポリーヌは両親ともオペラ歌手という音楽一家に生まれ、特に13歳年上の姉マリアが彼女の運命に大きな影響を与えます。マリア(ラ・マリブラン)はメゾソプラノ歌手として、その美貌と才能で「ロマン派のディーヴァ」と謳われた女性ですが、28歳の若さで亡くなったため、妹のポリーヌが「第二のラ・マリブラン」になるべくオペラ歌手にデビューします。彼女の歌や演技は聴衆から絶賛されますが、共和主義者のルイ・ヴィアルドと結婚したため、政治的理由で彼女は新聞・雑誌の劇評で酷評を浴びるようになります。パリの劇場で契約が取れなかったため、ヨーロッパ巡業を余儀なくされますが、それが彼女の名声を高めることになりました。彼女の代表作はマイヤベーアの《預言者》のフィデス役、グルックの《オルフェ》(ベルリオーズ編曲)のオルフェ役で、両作品とも100回以上のロングランとなっています。二月革命、普仏戦争と激動の時代を生き抜き、ピアニストのリスト、ショパン、クララ・シューマン、画家のドラクロワ、作家のジョルジュ・サンド、ツルゲーネフなど芸術家たち、さらに各国の国王、皇帝とも親しく、幅広い交流関係がありました。参加者からも、ポリーヌと交流のある人物の名はよく知っていているのに、ポリーヌの存在は知らなかったという感想をもらいました。彼女の名が日本でも知られることを願っています。

最後に本間氏の発表では、1832年にパリで流行したコレラに関するシャンソンの紹介がありました。こうした伝染病や地震などの災害が起こると、決まって毒物を誰かが井戸に入れた、といった噂が流れますが、1832年も同様だったようです。コレラを歌った諷刺的なシャンソンは、大衆相手の地下酒場(カヴォー)で歌われ、メロディは当時の流行歌に乗せて歌われた、とのこと。したがって、暗い歌詞なのに、メロディは長調の明るい曲、ということがありました。有名な大衆歌人ベランジェにもコレラに関する歌詞があるそうです。コロナ禍が完全に収束していない現在においても、コロナソングがフランスで流布しているだけに、疫病とシャンソンには深い関係があることに気づかされました。

【研究会会報:発表レジュメ】

11月という学期中の忙しい時期でしたが、交通の不便な信州大学での会に、約30名の方が参加され、質疑応答も活発に行われて、盛会のうちに終わりました。夕食は松本駅近くのレストランで、地中海料理にワイン(今年初めてのボージョレ・ヌーヴォーをアペリティフとして飲みました。他のワインも飲み口が良く、非常においしく頂きました)で舌鼓を打ちました。

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