村田京子のホームページ – 関西バルザック研究会
関西バルザック研究会
第114回関西バルザック研究会
開催日: 2022年8月27日(土)
場所 オンライン(ZOOM) 開催
コーディネーター 松村博史 近畿大学教授
《案内》第114回関西バルザック研究会を下記の通り、開催いたします。当初はハイブリッド開催の予定でしたが、コロナ感染の急拡大のため、残念ながらオンラインでのみの開催となりました。今回は、昨年9月に日仏会館で行われたフランス革命と文学のシンポジウムでの発表(今年7月に白水社から『作家たちのフランス革命』というタイトルで出版されました)に補足事項を加えながらお話する予定です。参加希望の方は、村田までご連絡下さい。

日時:2022年8月27日(土)15時~17時

村田京子:「スタール夫人はなぜ、ナポレオンの怒りを買ったのか」

柏木隆雄:「バルザックにおけるフランス革命」

《報告》今回は、バルザック研究会のメンバーの他にも昨年、日仏会館で開催されたシンポジウム「文学作品に現れたフランス革命」のオーガナイザー、および本の編著者の三浦信孝氏、シンポジウムの参加者でシャトーブリアンの専門家小野潮氏も参加して下さいました。まず、村田が前回の発表に基づき、それを補足する形でお話しました。補足した箇所の一つが、「市場の女性たちのヴェルサイユ行進」についてのスタール夫人の見解です。民衆を「猥褻」「不潔」とみなすシャトーブリアンに対して、スタール夫人は民衆を「下層民」と否定的に見ているものの、それほど嫌悪感は感じておらず、ヴェサイユ宮殿のバルコニーに姿を現したマリー=アントワネットを見て、猛り立った民衆が一転して歓呼の声を上げるさまを描いています。スタール夫人の視点は、国王側からの視点、ヴェルサイユ宮殿の内部からの視線で、それはシャンタル・トマの『王妃に別れを告げて』の主人公、王妃の読書係の視点と少し似ているかもわかりません。『コリンヌ』では、ラオコーン像(左図)とニオベ像(右図)が女主人公の心象風景を映し出し、物語において重要な意味を持っていることを補足として強調しました。二つの彫像は実際にはイタリアではなく、ナポレオンによって、ルーヴル美術館に接収されてました。それをスタール夫人がわざわざ元の場所に戻して描いているところに、美術品を略奪したナポレオンへの批判が見出せます。柏木氏からラオコーン神話を深く掘り下げることでも、ナポレオン批判が見出せるとの指摘があり、確かにそこまでは思いいたっていませんでした。また、三浦氏からはスタール夫人のルソーに関する彼女の論考について質問がありましたが、残念ながらまだ読んでおらず、今後の課題となりました。

次に、柏木氏がフランス革命の歴史的流れ、およびフランス革命を扱ったバルザックとほぼ同世代の作家たちの作品について簡単な説明の後、バルザックの『暗黒事件』について丁寧な物語の説明がありました。執政政府時代の王党派の政府転覆計画を阻止しようとする政府側との闘い、陰謀と策略に満ちた事件を扱ったこの小説において、主要な登場人物のミシュ、マラン、コランタンの背後には歴史的人物(ダントン、タレーラン、フーシェ、ナポレオン、ルイ18世など)が潜んでいるという指摘は大変、興味深いものでした。個人的には、この小説の中で、紅一点として登場するロランスが非常に気になりました。彼女はアマゾン(乗馬服)姿で登場し、シムーズ兄弟など王党派の青年たち以上に活気と気概に溢れて困難に立ち向かう「男らしい」女性として登場します。『ふくろう党』で同じくフーシェの密偵コランタンに立ち向かうのがヴェルヌイユ嬢で、彼女もエネルギッシュな女性として登場してきます。革命期に現れたこうしたアクティヴな女性は、その後の『人間喜劇』の作品には登場してきません。こうした女性は、良妻賢母を貴ぶブルジョワ社会においては生きづらいのかもわかりません。バルザック研究者の伊藤氏から作品タイトル(Une ténébreuse affaire)について質問がありました。確かに「暗黒事件」は少しわかりにくく、松本清張のように「黒い霧事件」にしようかと柏木氏も迷われたそうですが、なかなか既成のタイトルを変更するのは難しそうです。

参加者は26名にのぼり、発表の後の質疑応答も盛んで、予定時間を大幅にオーバーして6時過ぎまでいろいろ意見交換することができました。三浦氏からは、スタール夫人の作品巡り(イタリアでのヴァティカン宮殿やウフィツィ美術館など)をしましたか、と尋ねられました。イタリアには昔行ったことがありますが、『コリンヌ』を片手に美術館巡りはしなかったので、コロナ感染が収束したら、スタール夫人巡り(スイスのコペの館も含めて)をしたいものです。

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