村田京子のホームページ – スコットランド美術展

IMG_0001学会のために3年ぶりに上京した折に、東京都美術館での「スコットランド国立美術館 美の巨匠たち」展(ポスター)を見に行ってきました。上野公園内にある美術館ですが、公園は多くの子供連れで賑わっていました。スコットランド美術館は1859年開館で、購入の他に篤志家による寄付や寄託に恵まれ、コレクションの拡充を図ってきたとのこと。今回の美術展では、ルネサンス(ラファエロ、パルミジャーノ、ヴェロネーゼ、エル・グレコなど)、バロック(ベラスケス、グイド・レーニ、ステーン、レンブラント、ルーベンス、クロード・ロランなど)、18世紀ロココ(ヴァトー、ブーシェ、グルーズ、レノルズなど)、19世紀の画家(ブレイク、アングル、コンスタブル、ターナー、ミレイ、コロー、ルノワール、ドガ、ホイッスラーなど)の絵画が時系列に展示されていました。その中でも印象に残ったのは、まず、ポスターにもあるイギリス人画家レノルズの《ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち》。この絵はイギリスの大貴族ウォルドグレイヴ伯爵の3人の娘を描いたもので、中央が長女のエリザベス・ローラ(20歳)、右が次女のシャーロット・マリア(19歳)、左が三女のアンナ・ホラティア(18歳)で、この絵は彼女たちの大叔父のホレス・ウォルポールが注文したものだそうです。ホレスはイギリス・ゴシック小説の祖とされる『オトラント城奇譚』で有名な作家で、後に首相となる人物です。この絵は結婚適齢期の姪の良縁のために描かせた絵画とされ、「三美神」の構図で描くよう注文されたそうです。彼女たちは白い豪華な衣装を身に纏い、髪の毛には髪粉がたっぷりかけられて灰色(マリー・アントワネットの肖像画でも見る髪型と色)になっており、顔は真っ白のおしろい(この頃は鉛白が使われていた)に赤いチークが引かれているという18世紀の宮廷女性の出で立ちです。3人の女性は針仕事をしており、一説によれば、「三美神」というよりもギリシア神話に出てくる運命の糸を紡ぐ三人の女神を描いているともされています。いずれにせよ、18世紀当時の上流階級の女性たちの習俗がよくわかる絵となっています。

ベラスケスまた、ベラスケスが若い時に描いた《卵を料理する老婆》(右図)も印象に残りました。カラヴァッジョのような明暗を対比させた厨房画(ボデコン)が描かれ、老婆が卵料理(油の中に卵を割り入れ、油をかけて揚げるという料理)を作っているところが描かれ、それを少年が真剣な眼差しで見つめていまブーシェす。少年は右手には瓜、左手にはオリーブ油の入ったガラス瓶を手にしています。画面手前の食器などが丁寧に描かれていますが、二人は喜怒哀楽を見せることもなく、無表情な様子をしていて、日常生活の一コマを切り取った風俗画としては、何とも不思議な絵になっています。それに対して、ロコロの画家ブーシェの《田園の情景》三部作(左図)はいかにも牧歌的な愛情風景が描かれていています。19世紀のラファエル前派のミレイの《古来比類なき甘美な瞳》(右図)は、少し薄暗い花咲く野原をバックに、小花模様のミレイ服を着て、摘んだ花の入った籠をを持つ美少女が描かれています。やはり、印象的なのは彼女の澄んだ、まっすぐ前を凝視する「甘美な瞳」でありましょう。ミレイの有名なオフィーリアの絵(左図)と比べてもこの絵の少女の視線には強い意志が感じられます。ただ、こオフィーリアの絵のタイトルはブラウニングの詩の一節から来ているそうで、その詩は恋人との仲を親に反対されて若くして死ぬ娘を扱っているとのこと。彼女もまた、死ぬ運命にあるのでしょうか。しかし、オフィーリアと違い、自分の考えを貫き通し、自らの意志で死を選ぶ女性のような気もします。他にも気になる絵が幾つもありました。また、ヨーロッパ旅行が気楽にできる時期になれば、スコットランド美術館を直接、訪れたいものです。

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