村田京子のホームページ – 関西バルザック研究会
関西バルザック研究会
第113回関西バルザック研究会
開催日: 2022年3月26日(土)15時~17時
場所 近畿大学東大阪キャンパス EキャンパスA館4階 402
コーディネーター 松村博史 近畿大学教授
《案内》第113回関西バルザック研究会をハイブリッド(近畿大学およびオンライン)で下記の通り、開催予定です。村田は、バルザックの『骨董室』『カディニャン公妃の秘密』に登場するモーフリニューズ公爵夫人(後のカディニャン公妃)を様々な図版を用いながら、モードの観点から分析していく予定です。参加ご希望の方は、村田までご連絡下さい。

村田京子:『人間喜劇』における「モードの女王」――モーフリニューズ公爵夫人(カディニャン公妃)

山崎恭宏:音楽小説『ガンバラ』と『マッシミラ・ドーニ』における「詩人」

《報告》研究会当日は、春の雨に見舞われましたが、近畿大学に来られた方が10名、オンラインで参加された方が20名以上で、総勢30名以上の参加者となりました。多少のトラブル(パワーポイントファイルがオンライン画面に映っていなかったようで、指摘されるまで気がつきませんでした)がありましたが、トラブルも解消して、無事に発表を終えることができました。

村田がまず、『骨董室』『カディニャン公妃の秘密』に登場するモーフリニューズ公爵夫人が「モードの女王」としてエレガンスの奥義を窮め、服装の記号を駆使して自分のなりたい女性に変貌するさまを見ていきました。「白いドレス」を纏った夫人は、「天使」のような清らかさを見せますが、同時に官能性も垣間見せ、「聖母マリア」と「メッサリナ」の二役を演じ分けていました。さらに彼女は危機に陥った恋人を救うために、男装して単身、辻馬車に乗り、彼を助けるという行動力も発揮しています。カディニャン公妃となった彼女の「垂れ下がった白の大きな袖」のついた「ビロード地の青のドレス」に「ヒースの白い花を髪に挿した」姿は印象的です。左図版の左側の女性が「垂れ下がった白の大きな袖」のビロード地の緑のドレスを着ています。右側の女性がまさに、髪に花を挿す当時の流行の髪型をしています。さらに、「編んだ髪を塔のように高く巻き上げた」彼女の髪(右図版)は、「美しい王冠」に喩えられています。それは「貴族の気品」を表すものでした。彼女は色の「統一」「調和」「シンプルさ」「自然らしさ」というエレガンスの要件をすべて満たしていました。別の機会では、彼女は「グレー系統の色を調和よく配合」した服を纏い、それは「人生への優雅な嫌悪」を表すもので、服装は一つの考えを表す「言語」となっています。こうした彼女の服装はプルーストの『失われた時を求めて』でも言及されていて、バルザックの服装描写は後世の作家にも影響を与えました。

次の山崎氏は、タイトルを少し変えて「バルザックにおける幻想の空間―『阿片吸飲者の告白』から『娼婦の栄光と悲惨へ』」というタイトルで、トマス・ド・クィンシーの『阿片吸飲者の告白』の影響を受けたバルザックの作品(『あら皮』『マッシミラ・ドーニ』『娼婦の栄光と悲惨』)の分析をされました。クィンシーの著作では阿片吸引者が時間と空間の感覚を失い、「一つの劇場が脳髄に現れ」、「豪華絢爛な夜のスペクタクル」を見せる幻覚シーンが描かれ(ピラネージの《牢獄》―図版にも言及されています)、阿片吸飲者は「詩人」とも呼ばれています。こうしたイメージがバルザックの『あら皮』の骨董屋での場面や『娼婦の栄光と悲惨』のコンシエルジュリの牢獄に閉じ込められたリュシアンが見る幻覚と結びついている、というご指摘でした。バルザックは当時の文学者の常で、ハシュシュを吸引したことがあるようですが、こうした麻薬なしでも「脳に世界を引き入れる力」を持ち、時間と空間を越えて「幻視」する力があったと思います。それが、2000人以上の登場人物を生み出して一つの世界を作り出す原動力になったと思います。物語の主人公がこうした幻覚を見るのは、自殺を決意した瞬間であり、死と結びついたものかもわかりません。

研究会は予定の時間を越えて17時30分過ぎまで続き、活発な質疑応答がなされました。いつもオンラインで画面越しにしか話ができなかったのが、一部の方々とは久しぶりに直接再会できて、楽しい時を過ごすことができました。やはり、対面の方が楽しさも増大するようです。

HOME | PROFILE | 研究活動 | 教育活動 | 講演会・シンポジウム | BLOG | 関連サイト   PAGE TOP

© 2012 村田京子のホームページ All Rights Reserved.
Entries (RSS)

Professor Murata's site