村田京子のホームページ – 日仏文化講座
「日仏文化講座」
「文学作品に現れたフランス革命」
開催日: 2021年9月25日(土)13時~18時
場所 オンライン会議
コーディネーター 三浦信孝 中央大学名誉教授

《案内》東京日仏会館主催で、下記のような「日仏文化講座」を開催の予定です(詳細は、下記のサイトをご参照下さい)。村田はスタール夫人の作品とフランス革命との関わりについて話をするつもりです。興味のある方は、是非ご参加ください: https://www.mfjtokyo.or.jp/events/symposium/20210925.html

 また、下記にありますように、前日の9月24日には、アヴォカ大阪大学教授のフランス革命とロマン・ロランとのご講演もありますので、こちらも是非ご参加下さい。

【案内文】フランス革命はフランスの歴史においてのみならず、世界史的に見ても画期をなす重要な事件である。実際に出来事に遭遇したある人々にとっては、自分が拠って立つ大地がその基盤から崩壊していくような感覚を与えられる事件であり、また別のある人々にとっては、当初は革命が掲げた「自由・平等・友愛」の新しい社会を希望させるものでありながら、ジャコバン独裁期にはギロチンに体現される流血の犠牲を引き起こした事件であった。「九十三年」は革命を扱う作品ではつねに、革命をどのように考えるのかの試金石として機能し続けた。革命を直接経験した世代から、現代に至るフランスの作家たちはフランス革命をどのように表象してきたのだろうか。フランス革命のどのような時期、どのような側面にスポットを当て、どのような視点を設定し、それをどのように読者に伝えようとしてきたのだろうか。

 本講座では、フランス革命の時期を実際に生きたスタール夫人、シャトーブリアン、革命にとりあえずの終止符を打ったナポレオンのブリュメール18日のクーデタ(1799年)の直後に生まれたバルザック、ユーゴー、そしてフランス革命資料を扱った古書店の息子として生まれ第一次大戦直前の時期に「恐怖政治期」を扱った小説を出版したアナトール・フランス、そして私たちと同時代の作家であるシャンタル・トマの作品を取り上げる。フランス革命を主題として取り上げた作家たちの視線を通して、現代にとってのフランス革命、また人間社会にとってのフランス革命を考える機会にしたい。

・村田京子(大阪府立大学名誉教授):スタール夫人『デルフィーヌ』『コリンヌ』

・小野潮(中央大学):シャトーブリアン『墓の彼方からの回想』

・柏木隆雄(大阪大学名誉教授):バルザック『暗黒事件』

・西永良成(東京外国語大学名誉教授):ヴィクトル・ユゴー『93年』

・三浦信孝(中央大学名誉教授):アナトール・フランス『神々は渇く』

・関谷一彦(関西学院大学):シャンタル・トマ『王妃に別れをつげて』

※報告は一人30分行った後、質疑応答を10分行います。途中で10分の休憩を挟み、最後に30分の全体討論を行います。

《報告》本講座は、13時から18時15分頃まで5時間余りの長丁場となりましたが、無事終えることができました。まず、前半部では、村田がルイ16世の財務総監であったジャック・ネッケルの娘スタール夫人自身と、フランス革命およびナポレオンとの関わりについて年表に基づいて簡単に触れた後、彼女の小説『デルフィーヌ』『コリンヌ』がなぜ、ナポレオンの怒りを買ったのか(ナポレオンから国外追放命令を受け、迫害される)、作品の内容と関連づけながら、その理由を探りました。次に、小野氏がシャトーブリアンの年表に基づいて彼の生涯を辿った後、彼の回想録『墓の彼方からの回想』でフランス革命がどのように描かれているかを紹介されました。貴族のシャトーブリアンは王族軍に加わるためにロンドンに亡命しますが、恐怖政治下で彼の兄夫婦はギロチンにかかって死ぬという悲劇を経験しています。したがって、彼の革命の描写には民衆の残酷さがクローズアップされています。しかし、シャトーブリアンは、フランス革命期とナポレオン時代を「巨人の時代」、王政復古時代を「ピグミーの時代」とも見ていて、神の視点にたっているとのこと。次に柏木氏がバルザックの『暗黒事件』(1800年9月に起こった元老院議員クレマン・ド・リのトゥール近郊の謎の誘拐事件をもとにした作品)では、1803年から1806年にかけての、亡命貴族たちによるナポレオン打倒の動きと、それを察知した警察大臣フーシェの密偵コランタンと彼らの対決と、ゴンドルヴィル伯爵の誘拐事件にまつわる冤罪事件(王党派のシムーズ兄弟、管理人ミシュが誘拐に関わったとされ、ミシュが死刑に、シムーズ兄弟はナポレオン軍に入って戦死)が扱われています。柏木氏は、その複雑な物語を図式を用いてわかりやすく説明され、卑小な事件の中に潜む闇の部分が歴史の大事件につながっていく過程を浮き彫りにされました。

 後半部では西永氏がユゴーの『93年』(1793年のヴァンデ地方の反革命派の農民の反乱を扱ったもので、彼らを指揮する王党派貴族ラントナック侯爵と、その甥で共和派の若い貴族ゴーヴァン、その師で厳格な共和主義者シムールダンの3人が登場)に関して、『93年』が1870年の普仏戦争の後、フランス人同士が血で血を洗う内戦を行った1871年の「パリ・コミューン」の直後の1873年に出版されていることに注目し、両者の密接な関係についてお話されました。次に三浦氏がアナトール・フランスの『神々は渇く』(93年の恐怖政治下のパリで、正義感あふれる青年画家ガムランが革命裁判所の陪審員になることで、次第に「残虐非道な怪物」に変貌していく過程が描かれている)を取り上げ、社会主義者の作者が彼の信条に反して、反革命的な小説を書いたのか、という問題について、クンデラの言葉(「耐え難いまでに劇的な<歴史>と耐え難いまでに平凡な日常性の共存」がこの小説の大きなテーマである)を挙げて説明されました。最後に、関谷氏が現代の女性作家(18世紀文学の研究者でもあり、アカデミー・フランセーズ会員でもある)シャンタル・トマの『王妃に別れを告げて』を取り上げました。この小説は、マリー=アントワネットの朗読係アガート(架空の女性)の眼を通した王妃像を、1789年7月14日から3日間にわたるヴェルサイユ宮殿での出来事を通じて描いたものです。ヴェルサイユ宮殿の汚さ、匂い、音や料理のあじわいなど、その舞台裏が描かれ、王妃が最愛のポリニャック夫人に裏切られた後、「王女としての自意識が生まれ」、生身の人間として立ち現れている、という説明でした。この小説を作者自身は「歴史小説」と考えている、ということで「歴史小説」とは何か、という考察をされ、歴史的な資料、文献に基づきながら、その空白部分を想像力で埋めるのが「歴史小説」という定義には非常に納得しました(ちなみにこの小説は映画にもなっています)。

 参加者は100名余りにのぼり、最後まで熱心に聞いて頂いたようです(ウェビナーのため、顔が見れないのが残念ですが)。会場からも様々な質問が出て、聴講の方々の関心の深さに感銘を受けました。この講座で、様々なフランス文学作品を取り上げることで、作家たちがフランス革命、特に93年(恐怖政治)およびナポレオンについて、どのように考えているのかが、ある程度明らかにできたと思います。「歴史小説」とは何か、という大きな議論は残念ながらタイムオーバーでできませんでした。また、次の機会でも議論を戦わしたいと思っています。



9月24日(金)18時~20時:エリック・アヴォカ大阪大学教授:


「フランス革命、文学的想像力への汲みつくしえぬ源泉ーロマン・ロランの「革命劇」をめぐって」

 使用言語:フランス語 (同時通訳付き)

案内文】フランス革命の政治的社会的変革は世界観の大転換をもたらし、作家たちの想像力と感受性を解放して数多くの文学作品を生み出した。本講演はまず、事件が生み出した政治的言葉の尽きることのない波とまじわった作家の主観的声のいくつかを拾い、革命の複数のヴィジョンとフィクションの軌跡をたどる。そのあと、革命の記憶の中に民衆演劇としてシェークスピア的ドラマを描いたロマン・ロランの「革命劇」の連作を取り上げ、ドレフュス事件から人民戦線の終わりまで半世紀にわたる歴史の危機を作家がどう乗り越えたかを分析する。

《報告》1時間半にわたるアヴォカ氏の講演ではまず、革命を扱った文学作品の簡単な紹介をされた後、ロマン・ロランの革命劇について詳細な解説がなされました。ロランは1898年から1939年の40年間にわたり、革命劇8本を書き、そのうち5本が1793年~94年の恐怖政治の時代の設定になっています。そして、執筆時期が3つに分かれ、ドレフュス事件、ロシアのヴォルシュヴィキ革命、インドのガンディーの平和主義、スターリンの粛清といった背景がこうした革命劇に反映されているそうです。ルソーの影響が大きく、ルソー自身が登場する劇や、ルソーの思想に着想を得たものなどがあるとのこと。私は『愛と死の戯れ』(これが一番人気のある演劇)を読んだことがありますが、主人公は実在の思想家コンドルセと化学者のラヴォワジエがモデルで、ジャコバン政権時代にジロンド派として逮捕の手が迫っている主人公とその妻、妻の恋人との間の心の葛藤が描かれています。最晩年の『ロベスピエール』という劇は上演不可能(24場もあり、場所も様々で登場人物の多さなど)で、なぜ彼がこの戯曲を書いたのか、その説明が非常に興味深かったです。その後の質疑応答も活発に行われ、有意義な時間を過ごすことができました。

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