村田京子のホームページ – シャンソン研究会(2021.6.26)

330px-Pomme_Cigale_janvier_2020シャンソン研究会が1年ぶりに開催されました。コロナ禍のため、オンライン開催で発表も30分ほどに縮める形で4人の方が発表されました。恒例の高岡優希さんの発表は「静かな風 ポムPomme―等身大の女性の内面をひそやかに歌う―」というタイトルで、24歳の若手女性歌手の紹介をして下さいました。本名はClaire Pommetで、そのニックネームがPommeということ(左写真)。音楽好きの両親の影響を受けて歌手になったそうで、彼女の2枚目のアルバム(作詞作曲も本人)が音楽大賞で新人賞を取って以来、注目の高まった新進気鋭の歌手で、「Pommeは身をもって体験した音楽界にはびこるセクシャルハラスメント、パワーハラスメントなどを告発」(高岡さんの資料より)し、さらに「LGBT(Q)についての率直な告白」もしているそうです。その一例として「On brûlera(身を焼く私たち)」の曲の一部を聞かせてもらいました。そこではレズビアンとしての彼女の恋人への想いが激しく語られています。それは、「Je t’aimerai encore(あなたをずっと、愛するでしょう」や「Je veux mourir dans tes bras(あなたの腕の中で私は死にたい」という何度も繰り返される歌詞からもわかります。さらに、「敬虔なクリスチャンである母への罪悪感」を歌った「1996」(1996年は彼女の生まれた年)の曲も流してくれました。若干24歳の女性が、こうした複雑な心の内面を率直に歌い、それがヒットチャートに載ること自体が日本では考えられない事だと思います(日本では、彼女が宮崎駿監督の映画『千と千尋』の主題歌を日本語で歌ったのが有名なようで、少しアイドル歌手的な扱いがされているのには少し違和感がありました。ただ若いフランス人が日本のアニメに非常に興味を持っている証拠でもありますが)。

images米金孝雄さんの発表「ケンジ・ジラク Kendji Girac ―  sa vie et ses chansons」では、同じく24歳の若手歌手ケンジ(右写真)の紹介がありました。彼はワインの産地で有名なボルドー地方のペリグー生まれで、2014年の音楽番組The Voice(4人の審査委員の前で歌ってその技量を競う人気番組)でラップ歌手Maître GimsのBellaという曲などを歌って優勝し、その後、ジプシーの価値観(生きる喜び、太陽など)を歌ったColor Gitanoが大ヒットして一躍有名になった歌手です彼はカタローニャのジプシー (gitane)出身で、夏は路上、冬はベリグーに住むキャンピングカー生活者として育ったそうで、スペイン語、オック語、カタローニャ語がしゃべれるとか。彼の曲は確かに、ジプシーキングに連なるジプシー音楽のジャンルに入りますが、gens de voyage(定住地を持たず各地をキャンピングカーで移動して暮らす人々)と呼ばれる当事者からの発信、というのがケンジの特色ではないかと思います。gens de voyageは、しばしば掏りや泥棒扱いされ(ケンジも人々に警戒された経験を語っているそうです)、偏見の眼で見られてきたのを跳ね返す形で音楽活動をしている点で、ポムとの共通点(マイナーな側からの社会的発信)が見出せるように思います。

また、岡本夢子さんの発表「『シャ・ノワール』のシャンソンと当時の反響」では、19世紀末のパリのモンマルトル界隈にあった「シャ・ノワール」というキャバレーでの多岐にわたる活動(シャンソンや詩、モノローグの披露、影絵劇、政治・文芸評論など)の中で、とりわけシャンソンを取り上げられました。当時の客が「シャ・ノワール」に通ったのは主にシャンソンを聞くためであったのに、これまではエピソード的にしか扱われず、学問的な対象にはならなかったそうです。岡本さんは、シャンソンを回想録などを中心にこれから研究される計画とのことでした。最後に、吉田正明さんが「フランスにおける『子どもの歌』の誕生」というタイトルで、19世紀後半になって、民衆歌に連なる「子どもの歌」に初めて関心がもたれるようになった経緯を話されました。とりわけ、Dumersanの『子どもの歌とロンド』がその嚆矢となり、1843年に精巧な挿絵の入った豪華本(3巻本)として出版されました。「子どもの歌」といっても、古い民謡に遡り、そこには民衆の猥雑さが入り混じった不謹慎な歌詞が入っていたのが、ブルジョワ向けに書き換えられていったとのこと。その例をいくつか紹介してくれました。Dumersanの本には歌詞の他に楽譜も載っていて、ピアノ伴奏で歌えるようになっていたそうです。今では子供向きとされる、ペロー童話やグリム童話においても、そのルーツとなる昔話の性的な部分や残酷な部分が削除されたように、「子どもの歌」も次第に無邪気な歌詞に変わってきたのでしょう。

4人の方々の発表は、それぞれ多様な視点からのご発表で非常に示唆に富み、音楽も聞けて、本当に楽しいひと時を過ごすことができました。

 

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