村田京子のホームページ – 国際女性デー記念シンポジウム「モダンガール、時代を牽引した女たち」

3月8日の国際女性デーを記念して、日仏女性研究学会と日仏会館共催のシンポジウム「モダンガール、時代を牽引した女たち」(オンライン開催:ポスタープログラム)に参加しました。本シンポジウムは、第一次世界大戦後(1920年代)に出現した「モダンガール」に焦点を当て、彼女たちがジェンダー規範を逸脱した女性として迫害されたいきさつを探る試みとなっています。まず、サンドラ・シャール氏がストラスブールのご自宅から基調講演をされました。シャール氏は京都大学で研究をされただけあり、流暢な日本語で「1920~30345px-Kobayakawa_Tipsy_2年代の日本の風刺画に見るモダンガール」というタイトルで発表されました。当時、タイピストなど新しい職業に就いた短髪にお洒落な服を着た都会の女性たちが「モダンガール」(右図)としてもてはやされましたが、一方で彼女たちは「良妻賢母」という理想の女性像から逸脱しているがゆえに、社会風刺画において揶揄の対象となりました。彼女たちは「女らしさ」の規範を破壊する力を持っているため、知識人にとっては危険な存在で、岡本一平を始めとする風刺画の作者を刺激したようです。そこでは、「モガ」たちは異常で病的な「ニンフォマニア(色情狂)」、「自由奔放なセクシュアリティ」の体現者、家族制度の破壊者として描かれています。シャール氏の発表は、こうした風刺漫画を数多く使って、モダンガールが引き起こした男性たちの反応を明瞭に浮かび上がらせ、非常に説得力のあるものでした。次に、新行内美和氏が「『魔女』にみる日仏の女性表象の変遷―フェミニズムとポップカルチャーをめぐって」というタイトルでの発表をされました。まず、中世末期から18世紀までの西欧における「魔女」の歴史の概略の説明eUFCYQlm4oyQ5OjFFh7PkzDjxa4T78ip2KzVsGMa(特に、魔女裁判および近代国家の成立とともに魔女狩りが終焉するまで)の後、1970年代に「男性が主体となって形成してきた『魔女』表象の歴史を女性が引き受け、主体として取り戻す動き」がウーマンリブ運動の中で生まれたことの説明がありました。さらに、日本の大衆文化の中で「魔女」が「少女文化」と結合し、「魔法少女」といった日本独特のアニメのキャラクターとして登場してきたことの紹介がありました。キャラクターとしては、思春期の少女が大人の女性に成長していく過程を描いた「魔女の宅急便」も印象的ですが、特に「セーラームーン」(左図)は画期的で、ヒーローに守られる「受け身の女性」ではなく、男性を守って戦う戦闘少女として登場しました。キリスト教文化が根強く残る西欧とは違い、日本の場合は「魔女」に宗教色は全くなく、少女の憧れの的となり、それが西欧に逆輸入されているのが面白い限りです。

日立第二部は「モダンガール、新天地を切り拓いた女たち」というタイトルで、まず、吉川佳英子氏が「建築家 早間玲子氏の夢と奮闘」というタイトルで、日本の女性建築家の先駆けとして、早間氏の業績を紹介されました。1933年生まれの早間氏の時代では、建築はまだ女性に閉ざされた世界で、建設現場には女性は危険だという理由で入れなかったそうです。彼女はフランスに渡り、建築家ジャン・ブルーヴェのアトリエに入り、フランス共和国建設家会に日本人で初めて登録し、アトリエを開設、苦労の末にブルターニュのキャノン新工場、オルレアンの日立コンピューター工場(右写真)を建設し、高い評価を得たとのこと。興味深かったのは、建築はフランスでは芸術の範疇に入り、行政の所管は文化省になるのに対し、日本では工学の範疇で国土交通省の所管になるとか。早間氏は日仏のこうした文化の違いでも様々な障害にぶつかったそうです。次に、志田道子氏が「永瀬清子―詩人のたたかい」というタイトルで、夭折した有名な詩人金子みすゞと同世代の女性詩人、永瀬清子について話をされました。彼女は農作業の傍ら、詩作を続け、1980年代に脚光を浴びたそうです。特に素晴らしいのは、81歳で代表作『あけがたにくる人よ』を出版したことで、我儘な夫との闘いを描いているそうです。また、「マリア」という短章は精霊によって受胎した聖母マリアについてで、予期せぬ妊娠によって得体のしれない子どもを育むことになった恐怖を描く、という全く新しい視点からのものとのこと。私も実際に読んでみたいと思います。最後に秦佳代氏が「イレーヌ・ネimagesミロフスキー『孤独のワイン』における自画像」というタイトルで、1920年代にフランスで活躍した女性作家についての話をされました。ネミロスフキー(左写真)の自伝的小説『孤独のワイン』と彼女の最初の作品を比較することで、彼女が自立に至るまでの母親との闘い(男に依存する古いタイプの母親と、新たな生き方を模索する娘との葛藤)を分析されました。マルグリット・デュラスの『アマン』にも母親との確執が描かれていますが、母と娘の葛藤、娘の自立への模索は、いつの時代にも当てはまる問題だと思います。ネミロフスキーの代表作『フランス組曲』は、映画にもなっているそうで、また翻訳を読んでみようと思っています。

巷でも大きな話題となりましたが、2020年のジェンダーギャップ指数は、日本は135か国中、121位(フランスは15位)と先進国ではほぼ最下位で、女性が伝統的な「女らしさ」の枠を越えて公的領域で活躍することの難しさを実感しています。その意味でも100年前に新しい道を切り開いたこうした女性たちの存在がもう少し知られることを願っています。

 

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