村田京子のホームページ – ミュージカル『マリー・アントワネット』

IMG_0002先日、梅田芸術劇場にミュージカル『マリー・アントワネット』を見に行ってきました。原作が遠藤周作、脚本ミヒャエル・クンテェ、音楽シルヴェスター・リーヴァイ、演出ロバート・ヨハンソンで、マリー・アントワネット役は宝塚出身の花総まり(左写真:プログラムより)。冒頭でマリー・アントワネットの処刑を嘆く恋人のフェルセンの回想から幕があき、彼女がフランスに嫁いできた時の様子が少し紹介された後、パレ・ロワイヤルにおけるオルレアン公主催の舞踏会で華やかな衣装を着たアントワネットがフェルセンと踊る場面が繰り広げられます。ただ、革命直前の飢IMG_0003えに苦しむパリの民衆の姿も同時に描かれ、舞踏会に紛れ込んだ庶民の娘マルグリット・アルヌー(右写真:昆夏美)がアントワネットたち貴族の浪費生活を非難し、民衆にパンを与えるよう要求します。その場で、あの有名なセリフ「パンがなければブリオッシュを食べればいいのに」という言葉(舞台では「ブリオッシュ」ではなく「お菓子」になっていました)が出てきます(アントワネットの言葉ではなくおつきの女性の言葉として)。これが二人の女性の出会いで、二人の運命が今後、交差していくことになります。民衆の苦しみを知っているフェルセンがアントワネットを諫めますが、彼女にはその意味がわからず、後に後悔することに。オルレアン公はルイ16世を蹴落として自らが国王になることを企む「敵役」として登場(国王夫妻、特にアントワネットへの誹謗中傷記事をエベールに書かせ、治外法権であったパレ・ロワイヤルの印刷所で印刷して世間に流布させたり、王妃の首飾り事件を陰で糸を引いていたり)。国王の裁判の時に死刑に賛成投票を入れたのがオルレアン公図24(フィリップ・エガリテ(平等)と自ら名乗る)なので、敵役としてぴったりですCoiffure_belle-pouleが、かなりデフォルメした形になっていました。王妃の髪結い師ベルナールや仕立職人のベルタン夫人も登場し、当時の贅沢で派手な衣装(パニエで膨らませた衣装:図版)に突拍子もない髪型(図版)がそのまま実現されていて、興味深いものでした。派手な生活に飽きたアントワネットがベルサイユ宮殿に作ったプチ・トリアノンでの疑似農園や、ロアン枢機卿が騙された、有名な首飾り事件や市場の女性たちがパンを求めてベルサイユに行進して、国王夫妻をパリに連れ戻しにくる場面、国王逃亡事件(ヴァレンヌで捕らわれる)、国王の処刑、コンシエルジュリ監禁、裁判など、アントワネットに関わる大きな出来事は、ほぼ網羅されていました。大きな虚構としては、民衆の先頭に立って革命を推進するマルグリットが実は、アントワネットと腹違いの姉妹であったという設定。アントワネットに対する告発者であったマルグリットが最後には彼女に同情し、オルレアン公を告発する、という筋立ては全く史実にはないものですが、作者は身分の全く違う二人の女性をそれぞれの分身として描きたかったのでしょう。このミュージカルのタイトルは「MA」で、マリー・アントワネットの頭文字であると当時に、マルグリット・アルヌ―の頭文字でもあるわけです。

大阪初日の舞台だったので、最後に主役の花総まりさんの挨拶もあり、コロナ禍で舞台の上演ができたことへの喜びを語っておられました。観客席も8割くらい埋まっていて(女性客がほとんど)、拍手で盛り上がりました。やはり、舞台は画面越しではなく、直に見る方が感動が大きいと改めて思いました。

782px-Marie_Antoinette_and_her_Children_by_Élisabeth_Vigée-Lebrunところで、プログラムの中の山口幸史氏の記事「マリー・アントワネットをめぐる人々」が非常に面白かったです。女性画家ヴィジェ=ルブランのマリー・アントワネットの肖像画(図版)についてで、この絵には3人の子どもとアントワネットが描かれていますが、まず、注目すべきは彼女が宝石を身に着けていないこと。これは、「首飾り事件で権威を失墜した王妃のイメージアップ作戦の一つ」で、宝石よりも子どもたちが自分の宝だとアピールするためだったとのこと。長男のルイ=ジョゼフはすでに肺病に罹っていてまもなく亡くなりますし、彼が指さしている空っぽの揺りかごは次女のソフィ(絵の制作中に死去)を暗示しています。王妃に抱かれた赤ん坊が後にルイ17世(彼も若くして逝去)となるルイ=シャルル。結局、革命後、生き残ったのは娘のマリー=テレーズのみという悲劇の家族です。この絵が制作された意図は知らなかったので、この記事に非常に納得がいきました。

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