村田京子のホームページ – 奈良女子大学国際シンポジウム

奈良女子大学奈良女子大学アジア・ジェンダー文化学研究センター主催の国際シンポジウム「都市空間とジェンダー:身体表象と記憶をめぐって」(ポスター)が、11月12日にオンラインで開催されました。講演者の中で、とりわけカトリーヌ・ネッシ カリフォルニア大学教授はバルザックやジョルジュ・サンド研究で有名な方で、個人的にも親しいこともあって、シンポジウムに参加しました。

ネッシ氏の演題は「自由に街を歩く女たち:都市空間・文学区間におけるジェンダー化された身体」で、そのお話を簡単にまとめると、次のようなものになります。

19世紀のフランス人作家、バルザックからボードレール、プルーストの作品において、パリという都市空間で男の遊歩者が通りすがりの女性に魅せられ、その一瞬の邂逅と別れを「逃げ去る美」と重ね合わせて考察する場面がしばしば描かれています。そこには、自由に街路を歩き回り、観察できるのは男の遊歩者であり、女性は男の欲望の眼差しの対象でしかないというジェンダー構図が浮かび上がってきます。しかし、少数とはいえ、男性遊歩者の役割を手に入れ、都市空間を観察することができた女性作家たちが存在していました。本発表では、ロマン主義時代の作家ジョルジュ・サンド、ベル・エポック時代のコレット、20世紀のアルジェリアの作家アシア・ジェバールという3人の女性作家の著作を取り上げ、「女性遊歩者」について分析しています。

sandまず、サンド(左図版)に関しては自伝『我が生涯の記』を取り上げ、彼女が男装をした一番の理由を挙げています。それは男性の友人たちと同様に、劇場、美術館、カフェ、クラブ、街路を自由に動き回るためでありました(当時、女性は私的領域に閉じ込められ、公的空間は女人禁制、または男性のエスコートなしには入れない場所でありました)。男装はいわば、「女性として注目されない」ためであり、公的空間を匿名の観察390px-Colette_-_photo_Henri_Manuel者として自由に動き回り、社会の動きを知ることで、芸術創造に携わることができたわけです。次にコレット(右写真)の『さすらいの女』に関しては、主人公の女性が南仏の町をそぞろ歩きすることで、存在の自由を発見する過程が分析されています。コレットの遊歩者の最大の特徴は、視覚以外にも聴覚、嗅覚、味覚に関わる刺激を受けていることにありました。最後にジェバール(写真)の『影スルタン妃』では、とりわけ物語後半部分で、イスラム圏の女性としてヴェールをつけることを強制されてきたマグレブ女性が、ヴェールを脱いで顔を人目に晒して街を歩く場面が印象的で、それによって得られた新しい世界観、新しい自己認識を通して彼女の生きる喜びが描Assia_Djebarかれています。このように、19世紀から20世紀にかけての女性の遊歩者を取り上げたネッシ氏の講演は、非常に示唆に富む興味深いお話でした。

次の小田原のどか氏の「スタチューマニアとは何か 女性裸体像の街頭進出をめぐって」は、第二次世界大戦の前には軍人の騎馬像があちこちに建っていたのが、戦後、GHQによって銅像追放が行われ、騎馬像の代わりに建てられたのが、平和の象徴としての女性の裸体像でした。この平和の象徴としての女性の裸体像というのは、日本固有の特徴だそうで、それが特に印象に残りました。さらに、吉田容子氏は、「敗戦後の日本の都市空間はどう描かれたか:当時の新聞記事見出しを資料として」というタイトルのもと、敗戦後の日本で、米軍基地の周辺にできた売春地域について、当時の新聞記事を調査された内容を発表されました。呉や沖縄など3つの地域を調査した結果、売春において半ば公認された娼婦(性病検査を行っている)と、私娼の二つのグループに分類される、という話は19世紀フランスで推し進められた、警察の風俗取締局に登録された娼婦を認可された娼家に閉じ込め、監視する規制主義と類似していると思いました(規制から逃れる娼婦は「もぐりの娼婦」と呼ばれて危険視されました)。日本でもフランスでも男性による女性の身体の規制の最たる例と言えるでしょう。

本シンポジウムでは、文学研究者、彫刻家および彫刻研究者、空間地理学の研究者と研究ジャンルの異なる3人の専門家が都市空間における女性像を分析されていて、それぞれ大変刺激的なご発表でした。オンライン会議は、気軽に参加できる利点がありますが、それでも少し物足りなく、コロナ感染が終息して、直接会って意見交換できる日が来ることを願っています。

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