村田京子のホームページ – マルチーヌ・リード先生と

シンポジウムsIMG_4528奈良女子大学で国際シンポジウム「女性・文学・歴史」が開催され、参加してきました(ポスター)。本シンポジウムは、文学史において、「女性」がどのような位置を占めてきたのかを、フランス、日本、中国において探る試みで、三人の先生が講演されました。まず、リール大学教授マルチーヌ・リード先生(右写真)が、現在でも広く参照されるランソンの『フランス文学史』(1895)を取り上げ、この本が19世紀末の女性嫌悪(ミソジニー)の傾向を持ち、女性作家のほとんどが彼の文学史から排除された経緯を話されました。こうした傾向は20世紀まで続きますが、1970年代に始まった女性解放運動によって、女性作家の見直しが起こります。ただ、いまだその途上にあり、リード先生たちは現在、フランスとアメリカの大学の研究者たちと、中世から現在までの女性による文学的営みの全体像を総括する女性文学史を編さんし、来年3月に刊行予定だそうです(1000頁に及び大著のなるそうです)。次に名古屋大学教授、飯田祐子先生が近代日本における「女流作家」というカテゴリーについて話されました。和歌は古来、女性に適しているとされ、その伝統は与謝野晶子まで続くわけですが、「女流小説家」の評価はあまり高くなかったそうです。面白いのは、女性作家が脚光を浴びるのは①日清戦争直後、②日露戦争直後、③関東大震災直後、④日中戦争開戦直後だそうで、言わば、これまでの価値観が崩れる時だということ。戦争で男性がいない、ということも関連しているのでしょう。フランスでも同じですが、こうした女性作家たちは「女らしさ」の範疇から外れて男性化したとみられたようです。最後に、放送大学客員教授、白水紀子先生が中国について話をされました。中国の古典文学史には女性作家が存在していたにも関わらず、文学史にはほとんど言及されず、近現代文学史では、何人かの女性作家に言及されているものの、批評の基準は「啓蒙」で、女性の内面(閉塞感や女としての悲哀)を描いたものは「主題」になり得なかったそうです。何人かのフェミニズム作家の紹介がありましたが、特に記憶に起こったのは、張愛玲の『金鎖記』。家父長制の被害者であった主人公は夫の死後、権力を握った時、嫁を自殺に追い込み、実の息子と娘もアヘン中毒にして滅ぼし、自らも死ぬことで家父長制を葬り去ろうとした「悪魔の母」の物語だそうです。一つ、日本と違うのは、日本の場合は昔は、夫が死んでも妻は息子に従うしきたりでしたが、中国の場合は家長は妻となるそうです。ともかくその壮絶な生きざまに驚きました。三人のお話の後、二人の先生のコメント、会場との質疑応答などがあり、非常に盛り上がった一日でした。

また、日を改めて奈良女でジェンダー講読セミナー「ジョルジュ・サンド『ガブリエル』を読む」が開催され、リード先生、神戸大学教授、坂本千代先生、奈良女子大学教授、高岡先生がフランス語で『ガブリエル』についての講読およびコメントがありました。この小説は、戯曲仕立てになっていて、主人公のガブリエルsIMG_4531は遺産を相続させるために、祖父の意志で男の子として育てられた女の子で、自らの性を知ったガブリエルが正統な相続人の従兄のアストルフに財産を渡そうと彼に近づき、恋に落ちて結婚するものの、「男の教育」を受け、「自由」を何よりも希求する彼女にとって、「女の役割」を果たすことは束縛に過ぎず、最後は祖父が派遣した暗殺者によって殺される、という話となっています。ジェンダーの問題、さらに「男でも女でもない」、「第三の性」の問題が浮き彫りになる小説です。リード先生が編集されたフォリオ判の『ガブリエル』(表紙がなかなか素敵です。ガブリエルも男装の女性としてさっそうと登場します)を持って、参加者で記念撮影しました(左写真:手に持っているのは、リード先生編集のフォリオ版『ガブリエル』)。

sIMG_4534sIMG_4535夕食は昨年も訪れたフレンチレストラン「フォルム・エテルニテ」。今回はmenu éternitéコースを取りました。どれもおいしく、見た目も美しかったですが、魚は「鳥取・日本海の天然ヒラメ ひらひら農園さんの大根」(左写真)。ヒラメ(フランス語でturbot)も新鮮で、大根は4種の大根。肉は「奈良県産・黒鶏プレノワール」(右写真)。もともとはフランスのブレス産の鶏がプレノワールとして有名だそうですが、奈良で飼育しているとか。黒コショウの効いた濃sIMG_4539sIMG_8997厚なソースで頂きました。あと、デザートが驚きで、「タルトタタンのオマージュ」(左写真)。タルトタタンは、フランスの伝統的なデザートで、薄切りのりんごを下に敷いてケーキの種を流し込んで焼く素朴なお菓子ですが、それとは全く違う洗練されたものとして出てきました。リンゴのソルベ(シャーベット)に、リンゴの薄切りを揚げたもの、など調理の仕方の違う何種類ものリンゴが出てきて、一堂、驚きの声を挙げました(みな、味にもうっとり)。楽しい女子会でした(写真)。

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