村田京子のホームページ – ワークショップ「女性作家と文学場のジェンダー」
日本フランス語フランス文学会春季大会
ワークショップ「女性作家と文学場のジェンダー」
開催日: 2018年6月3日(日)10時~12時
場所 獨協大学
コーディネーター 小倉孝誠 慶応義塾大学教授
《案内》下記のワークショップを、日本フランス語フランス文学会春季大会で開催します[パネリスト:川島慶子 名古屋工業大学教授、村田京子 大阪府立大学教授、東辰之介駒澤大学准教授]。興味のある方は是非ご参加下さい。詳細は2018年度春季大会プログラムを参照のこと(下記はワークショップの趣旨説明から)。

18世紀から19世紀にかけては、科学的啓蒙や文学の領域で多くの女性が活躍し、同時代的には多くの読者を得ていた。しかし例外を除いて、その後それら女性作家の多くは科学史や文学史から排除されてきた。近代は知と文学の言説を戦略的に「男性化」してきたと言えるかもしれない。知の生産や創作が展開する「文学場」は、ジェンダー的な力学と無縁ではないのだ。本ワークショップでは、18世紀の女性科学啓蒙家と19世紀の女性作家を対象にして、同時代の男性作家と比較しながら、広義の「文学場」とジェンダーの関係を問い直す。

川島は「女が書くこと、公表すること、名前を出すこと」に着目する。女性作家を扱う場合、この三要素は分けて考えなければならない。ここでは18世紀の科学啓蒙家エミリー・デュ・シャトレを取り上げ、彼女が科学の本を書き、出版し、そこに自らの名を冠するに至った経緯を、ジェンダーの視点から分析する。

村田は「捨てられた女」のテーマを取り上げる。このテーマはオウィディウスのサッフォー像に遡り、バルザックが同名の小説を出版するほどの文学的クリシェとなっている。男性作家が創造した「捨てられた女」のテーマを女性作家がどのように扱ったのか、スタール夫人やサンドの作品をバルザックの小説とも比較しながら検証する。

東はソフィー・ゲーを取り上げる。『アナトール』(1815)で知られる彼女の小説の魅力は細やかな観察にあるが、それだけでは長いキャリアを築くことはできなかった。女性作家が特別視されていた文学場において、ゲーはどんな戦略を取ったのか。ジャンル選択や男女の描き方に注目し、バルザックら男性作家と対比して検討する。

《報告》真夏を思わせる暑い一日となった6月3日、都心から少し離れた(上野駅から電車で40分余り)獨協大学でのワークショップ、10時からと早い時間だったにも関わらず、大勢の人が参加してくれました(約60名)。会場も新しい建物で教室の設備も良く(PCが教卓に備え付けられていてUSBメモリーのみ持参でスクリーンに映し出すことができるという、優れもの)、明るい快適な部屋でした。まず、小倉先生のワークショップの趣旨説明と発表者の紹介の後、川島先生が18世紀のサロンの女主人として有名なエミリー・デュ・シャトレ夫人について話をされました。女が本を書くということ、しかも自分の名前を出すことがいかに難しかったか、ヴォルテールとの関わり(最初はヴォルテールの名前で夫人自らの考えを世に出した)を通して明らかにされました。やはり、サロンの女主人として男の科学者や文学者とエスプリに富んだ会話を楽しむのは良くても、女性自らが専門的な科学知識を発揮して本にするのは、「女らしさ」の範疇から外れていたわけです。次に東先生が、19世紀の女性作家ソフィー・ゲーを取り上げ、作品分析をされました。ゲーが女性作家のジャンルとされる書簡体小説や感傷小説を書いている限りは、サント=ブーヴなど批評家たちから称賛されるが、男の領域とされる歴史小説のジャンルに入り込むと批判の対象となる、というのが特に興味深かったです。ソフィ・ゲーは新聞王エミール・ド・ジラルダンの妻「デルフィーヌ・ド・ジラルダンの母」としてのみ有名で、その作品は100年間再版されていないように、長らく忘れられてきました。しかし、もう一度読み直す必要があると実感しました。最後に村田が、「捨てられた女」のテーマを古代ギリシアのサッフォー像(オウィディウスの『名婦の書簡』によっ定着したイメージ:男に捨てられ、その詩的才能も失って崖から投身自殺をする)に遡り、それは男性が思い描く女性像に過ぎず、男性作家のファンタスムの産物であることを明らかにしました。その上でバルザックの作品(『ヴァン=クロール』『捨てられた女』『ウジェニー・グランデ』)における「捨てられた女」の特徴を抽出し、スタール夫人の作品(『デルフィーヌ』『コリンヌ』『サッフォー』)やジョルジュ・サンドの作品(『ラヴィニア』『メテラ』)がどのように「捨てられた女」のテーマを書き変えていったのかを検証しました。

パネリストの発表の後、会場からも様々な質問や意見が出て、予定の12時を越えるほどディスカッションが続き、大変有意義なひと時となりました。

ワークショップ報告(cahier22, 2018年9月発行、pp.6-10)

HOME | PROFILE | 研究活動 | 教育活動 | 講演会・シンポジウム | BLOG | 関連サイト   PAGE TOP

© 2012 村田京子のホームページ All Rights Reserved.
Entries (RSS)

Professor Murata's site