村田京子のホームページ – ゴッホ展

ゴッホ展京都国立近代美術館で開催された「Van_Gogh_-_la_courtisaneゴッホ展 巡りゆく日本英泉の夢」を見に行ってきました(ポスター)。ゴッホとジャポニスムとの関係を探った展覧会で、展示は5つの構成(1.パリ 浮世絵との出会い、2.アルル 日本の夢、3.深まるジャポニスム、4.自然の中へ 遠ざかる日本の夢、5.日本人のファン・ゴッホ巡礼)となっていました。まず、浮世絵との出会い、ということでゴッホは広重や北斎、渓斎英泉などの浮世絵の構図(特に西洋の遠近法とは違う日本独自の平坦な空間表現)や鮮やかな色彩に影響を受け、模写もしています。その中でもとりわけ際立っているのがゴッホの《花魁》(右図)で、これは渓斎英泉の《雲龍打掛の花魁》(隣の図)を模写したものでゴッホ 種まく人す。英泉の花魁の打掛自体がものすごく派手ですが、それにも増してゴッホの花魁の内掛は鮮やかな色彩(緑、赤、茶、白、群青色)に覆われ、花魁の簪も青と群青色というキッチュとしか言いようのない色の組み合わせとなっています。浮世絵の花魁の繊細な眼鼻立ちもゴッホの手にかかると、歌舞伎役者動物の隈どりに近くなっています。一種のカリカチュアと言えるかもしれませんが、西洋人から見ると、花魁もこう見えるのでしょう。また、蓮の葉にはガマ蛙が乗っていますが、これも歌川芳丸の《新板虫尽》(図)からHiroshige_Pruneraie_à_Kameidoの引用だそうです(この絵はオランダのゴッホ美術館のコレクションで、ゴッホが所有していたそうです)。竹や鶴のモチーフも別の浮世絵からの引用だそうで、この絵はゴッホが抱く日本のイメージの総決算となっています。昨年、パリのオルセー美術館で見たゴッホの《種まく人》はバルビゾン派のミレーの《種まく人》の引用ですが、さらに画面中央を斜めに横断する梅の木は、広重の《名所江戸百景/亀戸梅屋敷》(図)を参照したそうです。しかし、背景の巨大な黄色の太陽が何ともゴッホらしい特異さを醸しだしています。また、南仏アルルはゴッホにとって憧れの日本のイメージとして捉えられ、オリーヴ園ゴッホは陽光溢れる風景画を多く描いています(ポスターの背景は《アイリスの咲くアルル風景》:手前の菖蒲のような花がアイリス、後景の黄色一色の花はきんぽうげ)。しかし、《オリーヴ園》(右図)では、くねくねと曲がっポプラ林の中の二人た幹や枝、緑の葉もうねるような筆致で描かれ、じっと見ていると目まいに襲われそうです。明るい日差しにも関わらず不穏な雰囲気の絵で、画家に忍びよる不安や恐怖が現れています。他にも、遠近法がおかしくて、部屋が歪んで見えるので有名な《寝室》や彼の自画像なども展示されていました。さらに、日本初公開の《ポプラ林の中の二人》(左図)では、ナビ派的な色彩や印象派的なタッチで描かれた雑木の葉、と様々な絵画様式が混在しています。しかも、画面中央奥の腕を組んだ二人の男女はその顔が描かれておらず、特に女性の方は衣装が草木と混じって透明にも見え、幻のように浮き上がって見える、不思議な絵となっています。美術展最後のコーナーでは佐伯祐三など日本の画家や文学者たちがゴッホの足跡を辿り、ゴッホに因んだ絵を描いていることの紹介や、ゴッホと親しかったガシェ医師の一族を彼らが訪れ、署名した芳名録などが展示されていました。会期の終わり頃に訪れたので、会場内は満員電車のようなすし詰め状態で、少し疲れましたが、ゴッホを堪能できたひと時でした。

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