村田京子のホームページ – バルザック国際シンポジウム
バルザック国際シンポジウム
Balzac et la représentation de la Table
開催日: 2017年9月23日(土)10時~17時30分
場所 大阪府立大学 I-siteなんば
コーディネーター 鎌田隆行 信州大学准教授
《案内》「バルザックと食卓の表象」についての国際シンポジウムを開催します(詳細はプログラムをご参照下さい)。フランスからはMartine Reid リール大学教授、Nathalie Preiss ランス大学教授を招聘し、日本からは6人のバルザック研究者がフランス語での研究発表を行います。バルザックと食の関わりは強く、彼が牡蠣を何ダースも一度に食べたというエピソードがあるように、普段は大食漢ですが、小説の執筆(真夜中に行う)時にはほとんど食べず、コーヒーを何杯もがぶ飲みしながら一気呵成に筆を走らせた、というエピソードが有名です。バルザックの小説大系『人間喜劇』には、貧しい学生が通う安食堂から金持ちやダンディが通う流行のレストラン、銀行家が催す贅沢な宴会など、多様な食事の光景が描かれています。シンポジウムでは様々な観点からバルザックと食の関わりを浮き彫りにしていく予定です。参加費は無料ですので、興味のある方は是非、ご来聴下さい。

《報告》前日の雨もすっかり上がり、快晴の一日となりました。シンポジウムは10時からバルザック研究の重鎮、柏木隆雄先生のご挨拶の後、第一セッションが始まりました。鎌田隆行氏は『セザール・ビロトー』の食事の場面が生成過程によってどのように変容したのかを生成資料を丹念に読み解き、バルザックの意図を明らかにされました。次のマルティーヌ・リード氏は『ウジェニー・グランデ』で、グランデという吝嗇家の食事と、都会から来た従兄シャルルをもてなそうとする娘のウジェーニーと父との食卓での争いをクローズアップして話されました。特に、グランデがお金をけちって「カラスの肉でスープのだしを取れ」と女中のナノンに命じる場面で、死肉を食べるとされるカラスを使うことに躊躇するナノンに「生者は財産を相続することで、死者を食べて生きている」とグランデが言い返すのが印象的です。次に村田(写真左)が『人間喜劇』における娼婦と食卓の象徴的な関係を『あら皮』『ラ・ラブイユーズ』『従妹ベット』を中心に取り上げました。とりわけ、地方の娼婦を扱った『ラ・ラブイユーズ』では料理の腕前を磨くことで主人への支配力を強めるフロールが登場し、彼女は御馳走によって主人の性欲を抑制する(さらには過度の飲食または性行為のせいで死に至らしめる)ことに成功しています。それは、当時の衛生学者たちの言説に従ったものでもあったわけです。昼からの2番目のセッションではまず、博多かおる氏が食卓を分かち合う関係、寄食者と招待主との不均衡な力関係などに焦点を当て、次に東辰之介氏が逆に、食事を分かち合わない「非―共食」の関係を4つに分類して『人間喜劇』の様々な作品を分析されました。大下祥枝氏はバルザックの戯曲『策士』を取り上げ、食卓を意味するtableは「賭博台 (table de jeu)」を連想させ、証券取引所の株価操作につながっていく、というお話でした。最後のセッションでは松村博史氏がブリヤ=サヴァランの『味覚の生理学』から、バルザックが文学的デビューを果たした1830年前後の作品までの間に起きた変化について、モデルニテとの関わりで分析されました。最後にナタリー・プライス氏が「パノラマ文学」とバルザックの作品および食との関わり、さらには20世紀の作家ジョルジュ・ペレックとの類似点を様々な図版を用いて分析されました。さすがフランス人の先生だけあって、原稿はほとんど見ずに、40分間、手ぶり身振りもつけながら、非常に情熱的に話をされ、その迫力に皆、圧倒されました。各セッションの後のディスカッションも会場から様々な意見、質問が出たり、発表者同士の意見交換など、活発に行われ、盛会のうちに終わりました。写真右は、発表者が勢ぞろいしたもの。詳しくは、発表者のフランス語・日本語のレジュメ参照のこと(参加者34名)。シンポジウムの後の懇親会もバルザックにちなんだ料理(ブログを参照のこと)で、おいしい料理とワインに皆、大満足の一日でした。

《案内》 なお、国際シンポジウム前日の9月22日(金)にもプライス先生の講演会 (タイトル:Balzac et l'illustration) が大阪大学で開催されます(詳細は案内ちらしをご参照下さい)。講演会にも奮ってご参加下さい。

《報告》22日はあいにくの雨でしたが、阪大の先生方をはじめ、多くの研究者がプライス先生の講演に参加しました。発表タイトルは、Balzac Illustre (é)に変更になりました。意味としては「かの有名なバルザック」という意味と「イラスト版バルザック」「イラストにされたバルザック」という意味がかけられています。19世紀当時、『カリカチュール』紙や『シャリヴァリ』紙など、政治批判のためのカリカチュア(風刺画)が多く流行しました(一番有名なのが、国王ルイ=フィリップをからかったpoire洋梨の絵)。当時の作家たちも文学パンテオンの形でカリカチュアとなっています。プライス先生はカリカチュア作家のドーミエやガヴァルニ、ベルタルなどの図版を見せながら、お話をされ、その中でも、バルザックの作品『あら皮』の挿絵版は、バルザック自身が特に気に入って、挿絵から創作の影響を受けたというのが、一番興味を引きました。プライス先生の講演は、ともすれば逐次訳をしてくれる松村氏が途中で止めないと、弾丸トークが止まらない、というくらい熱のこもったもので、2時間があっという間に過ぎました(写真はナタリー・プライス先生と通訳の松村博史氏)。

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