村田京子のホームページ – 女性学講演会「文学とジェンダー」
女性学講演会(大阪府立大学女性学研究センター・「文学とジェンダー」共同研究プロジェクト共催)
「文学とジェンダー」
「文学、モード、ジェンダー」
開催日: 2016年10月8日(土)
場所 大阪府立大学 I-siteなんば 2階C2 C3
コーディネーター 村田京子
《案内》第20期女性学講演会第1部「文学とジェンダー」第1回を開催いたします。今回は副題に「文学、モード、ジェンダー」とあるように、19世紀後半から20世紀にかけてのフランスのモードと文学の関係に焦点を当ててジェンダーの視点から探っていきます。この時代、男性作家(ゾラ、ゴンクール、マラルメ、プルーストなど)が美術やモードに関心を持ち、美術評を新聞・雑誌に掲載したり、最新流行のモードを纏った女性の登場人物をその作品に登場させています。こうした女性たちがどのように描かれているのかを、ゾラおよびプルーストの作品を通じて見ていきたいと思います。モードの図版や絵画も多数使う予定ですので、関心のある方はふるってご参加下さい(詳細は2016女性学講演会を参照のこと)。

2時~3時:

「『服飾小説』としてのゾラ『獲物の分け前』―モード、絵画、ジェンダー」      村田京子(大阪府立大学教授)

3時15分~4時15分:

「プルースト『失われた時を求めて』―モードから見る三人のヒロインたち―」  長谷川富子(神戸海星女子学院大学名誉教授)

4時30分~5時 : 講演者との質疑応答

《報告》10月にしては蒸し暑いほどの天気でしたが、60名を越す方々が講演会に参加して下さいました。まず、村田(写真左)がゾラの『獲物の分け前』を「服飾小説」とみなし、女主人公ルネを中心に、衣装と人物の関係をジェンダーの視点から分析し、以下の4点を明らかにしました。①ルネと「パリ人形」との関連:当時、大量生産された「パリ人形」(写真右)は大人のファッションの正確なレプリカであり、「パリ人形」と呼ばれるルネはまさに「着せ替え人形」のように描かれている。また、ゾラが擁護する印象派のモネの《庭の女たち》における女性像とルネには共通点―ファッションプレートのような人物像、「装飾的で消極的な特徴を持つ社会的ステイタスの象徴」であること、上流階級を象徴する「鮮やかな白」の衣装を纏っていること―がある。②ウージェニー皇后とルネとの類似:ファッション・リーダーとして過剰な装飾の高価な衣装を好んだこと。また、ゾラの小説では「芸術家」を標榜するウォルムス(皇后の仕立屋でオートクチュールの祖ウォルトがモデル)によって、仕立屋と顧客の主客が転倒し、ルネは服を着る「主体」から「芸術家」の手になる「作品」に変容している。③「操り人形」としてのルネ:ルネは夫のサカールにとっては「顕示的消費」の対象であり、一種の「金融資産」とみなされ、義理の兄ルーゴンには「政治的身体」として利用され、次第に彼らに都合の良い衣装―「裸体」を浮き彫りにする衣装―を纏うようになる。④ルネの私的空間である小サロン、寝室、化粧室が「服飾用語」で描写されている。こうした部屋が温室も含めてルネの身体と密接に関わり、ルネの身体は部屋に組み込まれている(ホイッスラー、シャプラン、ギュスターヴ・モローの絵画との関連にも言及)。こうした分析から浮かび上がってくるのは第二帝政社会における「女の身体のモノ化」でありました。

次に長谷川先生(写真)がプルーストの大長編小説『失われた時を求めて』に登場する三人のヒロインたちに焦点をあて、第三共和政から第一次大戦までのベル・エポックの時代におけるモードの移り変わりと関連づけて人物像を分析されました。一人目のヒロインが高級娼婦オデットで、男たちを手玉にとり、派手な衣装でその美を誇示する挑発的な女性から、スワン夫人となると「王妃の気品と娼婦の媚」を持つようになったこと。そして、モードが過剰な装飾のバッスル・ドレスからS字型に変わっていくにつれて、オデットの性格も変化していること。最後にスワンの亡き後フォルシュヴィル伯爵夫人となり、エレガントの極致に達していることを明らかにされました。二番目のヒロインとしては、パリでも由緒ある貴族たちが住むフォーブール・サン=ジェルマンの頂点に立つゲルマント公爵夫人が登場し、洗練された衣装を纏った公爵夫人は威厳と権威に満ちた女神のように描かれていること。ただし、スワンから不治の病に罹っていることを聞かされても、社交界を優先して出かけていく夫人の驕慢さと残酷さは、彼女の真っ赤な衣装に象徴されていること。三番目のヒロインは語り手の「私」の恋人アルベルチーヌ。彼女はポロ帽を被り、自転車に乗る、新しい時代のスポーツ娘として溌剌と登場するものの、「私」によって家に閉じ込められ、羽根を切られた鳥のような「囚われ女」となり、最後はその束縛から「逃げ去る女」へと変わること、そのきっかけが部屋着(着物風)のまま外出することであった、というのは面白い指摘でした。また、映画やドラマの『失われた時』の映像を多く見せて頂き、当時の雰囲気がよくわかりました。講演の後は、「女のショート・カット」についての質問で会場が盛り上がるなど、活発な質疑応答があり、盛会のうちに終わりました(参加者68名)。

 

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