女性学講演会(女性学研究センター主催、人間社会学研究科「文学とジェンダー」共同研究プロジェクト共催)
「文学とジェンダー」
「文学における危険な女性たち」
《案内》第19期女性学講演会 第2部(第2回)「文学とジェンダー」を開催いたします。今回は副題に「文学における危険な女性たち」とあるように、フランス文学(とりわけ、「宿命の女 (femme fatale)」が多く登場する19世紀後半の文学作品)に登場する「危険な女性たち」を取り上げ、彼女たちがどのような点で男性作家および当時の男性たちによって「危険」だとみなされたのかを探っていきたいと思います。また、こうした女性に関わる絵画も参照しながら、ジェンダーの視点から文学を味わっていきたいと思います。関心のある方は、ふるってご参加下さい(詳細は2015女性学講演会を参照のこと)
2時~3時 : 「母と娘―フローベールのサロメ像と神話の変遷」 大鐘敦子 関東学院大学教授
3時15分~4時15分: 「危険な「ヴィーナス」―ゾラの娼婦像と絵画」 村田京子 大阪府立大学教授
4時30分~5時 : 講演者との質疑応答
《報告》師走の忙しい時期に、大勢の方に来て頂きました。まず、大鐘先生の「サロメのダンス」に関するお話で、特にワイルド劇の「七枚のヴェールの 踊り」として知られるサロメのダンスは、実際はフローベールの『ヘロディアス』で初めて言及されたものであったことを明らかにされました。確かにワイルド の戯曲ではト書きで「サロメは七枚のヴェールの踊りを踊る」とあるだけで、フローベールの小説でエジプトのベリーダンスのようなサロメの踊りが詳しく描写 されています。その中でも大鐘先生は「視線の動き(焦点化)とエロティスム」、「文体(音韻とリズム)」(聖なる3つのリズム)、「エジプトの踊り子 (Almée)のダンス」、「象徴性」「母と娘」という5つのキーワードでフローベールの小説を分析されました。とりわけ、「象徴性」に関して、サロメが 「巨大なスカラベ」に喩えられているのを取り上げ、スカラベ(ふんころがし)はエジプトでは「太陽を司る神の化身」であり、「復活の象徴」となっているこ と、ヨハネの死がキリストの出現を用意するという復活劇(ユダヤ教からキリスト教への移行)の中で、サロメはその介入者としての役割を担っていると解釈さ れているのが非常に心に残りました。また、ヘロディアスはキュベレー神(大地母神)とつながっているなど、示唆に富む興味深いお話でした。その他にも中世 の動物叙事詩「イセングリムス」にすでにヘロディアスが登場していることなどにも触れられ、サロメ神話の奥の深さを感じるご講演でした(写真左は講演中の 大鐘先生)。
次に村田がゾラの『ナナ』についての話をし、「社会の解体をもたらす危険な女」として登場するナナの危険性とは一体どのような ものなのかを検証しました。ゾラは、ロマン主義時代に席巻した「恋するクルチザンヌ(高級娼婦)」(真実の愛によって浄化される娼婦)のテーマ―デュマ・ フィスの「椿姫」など―を「感傷主義」だと批判し、「ありのままの娼婦」「真の娼婦」を描こうとしました。それがナナで、彼女は物語冒頭ではオペレッタ 『金髪のヴィーナス』の主役として舞台に登場し、観客をその性的魅力の虜にします。その「ヴィーナス」像をアカデミー絵画(カバネルやブーグロー)の ヴィーナス像と比べながら両者の類似と差異を明らかにしました。次にナナの「獣性」に関する考察(「女の匂い」や「厚化粧」など)、同じく「真の娼婦」を 描いたとされるマネ(ゾラが特に《オランピア》についてマネ擁護の記事を書いています)との関わり(ゾラとマネが社会の秩序を乱す恐れのある「もぐりの下 級娼婦」を描いたこと;マネの《ナナ》とゾラのナナとの共通点は、「見られる女」であると同時に「冷静に見る女」でもあること、など)、「空間を侵食する ナナ」のテーマでは「裏社交界 (demi-monde)」が「社交界 (grand-monde)」に侵食し、解体崩壊していく過程を追いました。また、『ナナ』にも「サロメ」のテーマが隠されており、ギュスターヴ・モロー の絵画とのつながりを明らかにしました。ゾラの小説でもサロメ神話を垣間見ることができたわけです(写真は講演中の村田)。
講演の後の質疑応答では様々な質問、意見がでて時間をオーバーするほど熱中した議論が続き、盛会のうちに終わりました(参加者37名)
「文学における危険な女性たち」
開催日: | 2015年12月26日(土) |
場所 | 大阪府立大学なかもずキャンパス B3棟106会議室 |
コーディネーター | 村田京子 |
2時~3時 : 「母と娘―フローベールのサロメ像と神話の変遷」 大鐘敦子 関東学院大学教授
3時15分~4時15分: 「危険な「ヴィーナス」―ゾラの娼婦像と絵画」 村田京子 大阪府立大学教授
4時30分~5時 : 講演者との質疑応答
《報告》師走の忙しい時期に、大勢の方に来て頂きました。まず、大鐘先生の「サロメのダンス」に関するお話で、特にワイルド劇の「七枚のヴェールの 踊り」として知られるサロメのダンスは、実際はフローベールの『ヘロディアス』で初めて言及されたものであったことを明らかにされました。確かにワイルド の戯曲ではト書きで「サロメは七枚のヴェールの踊りを踊る」とあるだけで、フローベールの小説でエジプトのベリーダンスのようなサロメの踊りが詳しく描写 されています。その中でも大鐘先生は「視線の動き(焦点化)とエロティスム」、「文体(音韻とリズム)」(聖なる3つのリズム)、「エジプトの踊り子 (Almée)のダンス」、「象徴性」「母と娘」という5つのキーワードでフローベールの小説を分析されました。とりわけ、「象徴性」に関して、サロメが 「巨大なスカラベ」に喩えられているのを取り上げ、スカラベ(ふんころがし)はエジプトでは「太陽を司る神の化身」であり、「復活の象徴」となっているこ と、ヨハネの死がキリストの出現を用意するという復活劇(ユダヤ教からキリスト教への移行)の中で、サロメはその介入者としての役割を担っていると解釈さ れているのが非常に心に残りました。また、ヘロディアスはキュベレー神(大地母神)とつながっているなど、示唆に富む興味深いお話でした。その他にも中世 の動物叙事詩「イセングリムス」にすでにヘロディアスが登場していることなどにも触れられ、サロメ神話の奥の深さを感じるご講演でした(写真左は講演中の 大鐘先生)。
次に村田がゾラの『ナナ』についての話をし、「社会の解体をもたらす危険な女」として登場するナナの危険性とは一体どのような ものなのかを検証しました。ゾラは、ロマン主義時代に席巻した「恋するクルチザンヌ(高級娼婦)」(真実の愛によって浄化される娼婦)のテーマ―デュマ・ フィスの「椿姫」など―を「感傷主義」だと批判し、「ありのままの娼婦」「真の娼婦」を描こうとしました。それがナナで、彼女は物語冒頭ではオペレッタ 『金髪のヴィーナス』の主役として舞台に登場し、観客をその性的魅力の虜にします。その「ヴィーナス」像をアカデミー絵画(カバネルやブーグロー)の ヴィーナス像と比べながら両者の類似と差異を明らかにしました。次にナナの「獣性」に関する考察(「女の匂い」や「厚化粧」など)、同じく「真の娼婦」を 描いたとされるマネ(ゾラが特に《オランピア》についてマネ擁護の記事を書いています)との関わり(ゾラとマネが社会の秩序を乱す恐れのある「もぐりの下 級娼婦」を描いたこと;マネの《ナナ》とゾラのナナとの共通点は、「見られる女」であると同時に「冷静に見る女」でもあること、など)、「空間を侵食する ナナ」のテーマでは「裏社交界 (demi-monde)」が「社交界 (grand-monde)」に侵食し、解体崩壊していく過程を追いました。また、『ナナ』にも「サロメ」のテーマが隠されており、ギュスターヴ・モロー の絵画とのつながりを明らかにしました。ゾラの小説でもサロメ神話を垣間見ることができたわけです(写真は講演中の村田)。
講演の後の質疑応答では様々な質問、意見がでて時間をオーバーするほど熱中した議論が続き、盛会のうちに終わりました(参加者37名)