村田京子のホームページ – 「ボヴァリー夫人とパン屋」

フランス映画「ボヴァリー夫人とパン屋」(アンヌ・フォンテーヌ監督)を「テアトル梅田」で見てきました。映画の主人公は、パリで12年間出版社に勤務した後、ノルマンディーの田舎に戻り、父のパン屋を継いで静かに暮らしていたマルタンで、彼の隣の家にイギリス人夫婦チャーリー・ボヴァリーとジェマが移ってきてからの騒動がマルタンの眼を通して描かれています。英語名のチャーリー(Charlie)は、フランス語名のシャルル(Charles)とほぼ同じ、ジェマ(Gemma)も一字外せばエンマ(Emma)になり、若い美貌の女性でフロベールの『ボヴァリー夫人』の主人公夫婦とぴったり重なり、しかも小説の舞台も同じくノルマンディーで繰り広げられるだけに、小説好きのマルタンとすれば、小説と同じ不倫の物語が展開されるのではないかと興味津津でジェマの動向を観察する筋書きとなっています。さらに初老のマルタンもジェマの官能的な仕草に惹かれており、パン生地を練る場面はエロチックな香りを漂わせていました。彼女を巡る3人の男たち(夫、年下の美青年エルヴェ、昔の恋人パトリック)との絡みは、マルタンから見れば、エンマの恋愛遍歴(ロドリック、レオン)と重なり、エンマが最後に砒素を飲んで死ぬという悲劇が再現されるのではと、マルタンが心配する場面は滑稽であると同時に、見ている私たちにもその不安が伝わってきました。特に印象に残ったのは、映画の後半でジェマがマルタンに向けていう「私はボヴァリー夫人ではない。自分の道を生きていく」というセリフ。それだけに、最後の思いがけない結末には少しあっけに取られました。それとは正反対の結末(ジェマの自立)の方が納得できたのですが。。。ただ、ボヴァリーが去った後の空き家に越してきた隣人がロシア人で「アンナ・カレーニナ」という名前の女性だと息子から聞いた(これは全くのデタラメ)マルタンがまた妄想を膨らませる場面で映画が終わるのは、何ともフランスらしい喜劇と言えるでしょう。名優ファブリス・ルッキーニが知的かつ覗き見趣味(といっても、いやらしくは見えない)男の滑稽さと哀愁を見事に演じていました。

HOME | PROFILE | 研究活動 | 教育活動 | 講演会・シンポジウム | BLOG | 関連サイト   PAGE TOP

© 2012 村田京子のホームページ All Rights Reserved.
Entries (RSS)

Professor Murata's site