村田京子のホームページ – 映画「サンバ」

久しぶりにフランス映画「サンバ」を見に行きました。「サンバ」は世界中で大ヒットした「最強の二人 (Intouchables)」の監督エリック・トレダノおよびオリイエ・ナカシュ監督、主役も同じくオマール・シーという取り合わせ。今回は、セネガルからフランスに来て10年目の主人公が、レストランの皿洗いから料理人に採用されることが決まり、やっと滞在許可証(papier)がもらえると喜んだが、不許可の通知が来て、収容所送りとなる、という場面から始まる。移民を支援するボランティア団体で働くことになったアリス(シャルロット・ゲンズブール)との出会い、フランスで生きていくための彼の戦いと、大手の人材紹介会社の幹部として働き過ぎてバーンアウトしてしまい、生きる気力を失っていたアリスが彼との出会いによって笑顔を取り戻していく過程が描かれ、その中で二人の恋愛がゆっくり進展していく、という話になっています。危険な工事現場や高層ビルでの窓ふき、ゴミ収集所でのゴミの分別など、普通の人が嫌がる肉体労働は、こうした低賃金の不法労働者によって担われている現実、さらに10年間真面目に働いても「滞在許可証」がもらえない移民の厳しい現実、警察の一斉検挙を常に恐れてびくびくと生きていかざるを得ない彼らの現実がありのままに描かれていました。その中で、時にはくじけそうになりながらも、笑顔で生き抜くサンバや、「ブラジル移民」ウィルソン(実はアルジェリア人)の逞しさに心を打たれました。特に興味深かったのは、白人のホワイトカラーであるアリスと、不法滞在のアフリカ系移民という社会的に両極端の二人のうち、アリスの方が彼に強く惹かれていること(普通ならば、逆のバターンが多いのに)で、価値の転倒が見られること。また、車の中の二人の会話で、サンバが「ある女性に対して越えてはならない一線を越えてしまった」(収容所仲間の恋人と寝てしまったこと)と、自らを責める言葉を聞いて、自分への愛の告白だと勘違いしたアリスが彼への恋愛感情を打ち明ける場面で、サンバは相手が違うことを説明しながらも、Je vous apprécie beaucoupという言葉を何度も繰り返した場面が心に残りました。apprécierという言葉は「価値を高く評価する、尊重する」という意味で、サンバから見れば、彼女との社会的格差が大きすぎて恋愛の対象としては考えられない、ということがはっきりわかる場面であり、しかも、勘違いした彼女の心を傷つけてはいけない、という思いやりが感じられる場面です。二人の初めての出会いの場面で、強制送還されるかもわからない、せっぱつまった状態で相談に来ているサンバの方が、面接者のアリスの顔色の悪さに気づいてÇa va ?と聞いていることからも彼の優しさがわかります(字幕では「元気?」となっていましたが、「大丈夫?」という訳の方が適切でしょう)。最後にサンバが死んだコンゴ人のpapierを使ってパリで無事、料理人(しかも、国の警備隊 garde républiqueの厨房で働いているのは、かなり皮肉!)の仕事に就く、というのは本当に可能なのか、と不思議に思いました。あと、国外退去を命じるが、「強制退去」ではなく、1年間目立たずに生きていれば、滞在許可証の申請を改めてできる、という制度は、いかにもフランス的だと思いました。この映画を「なんばシネマズ」で見ましたが、席がゆったりして足元も広く、快適に映画を楽しむことができました。

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