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【概要】
フランスにおいて、真の職業作家が誕生したのは大革命以降の19世紀になってからである。普通教育の普及や印刷術の発達によって、文学が一般大衆にとって身近なものとなり、作家は筆一本で身を立てることができるようになった。女性作家も同様で、18世紀までは、文学の担い手は貴族または裕福なブルジョワ階級の女性で、生活のためにペンを執ったわけではなかった。それに対して、19世紀の作家ジョルジュ・サンドは約90篇の小説、戯曲、旅行記などを出版して、その印税で大勢の家族を養った。
19世紀のフランス女性作家のうち、サンドとスタール夫人はロマン主義およびフェミニズム運動の先駆者として、日本でもよく知られている。しかし、この他にも数は少ないとはいえ、様々な階級の独創的な女性職業作家が誕生した。日本ではあまり知られていない、こうした女性作家たちを発掘し、彼女たちがどのような生き方をして、どのような作品を生み出したのか、その作品に反映されている女性の視点とはどのようなものかを探るのが、本書の狙いである。
本書ではまず、近代小説の祖バルザックの作品を軸に、男性中心であった19世紀文壇の実態をジェンダーの視点から浮き彫りにする。次に、国王ルイ・フィリップの養育掛を務めたジャンリス夫人、女性ジャーナリストの草分けであるデルフィーヌ・ド・ジラルダン、そして労働者階級出身で労働者階級の解放に身を捧げたフロラ・トリスタンに光を当て、「女がペンを執る時」とはどのような時なのかを明らかにする。出自も思想も様々な女性職業作家たちを扱う本書は、「女・文学・社会・労働」といった現在にも通用する普遍的なテーマを考える上でも、一つの足がかりとなろう。
【本書に関する書評】
『読書人』(2011年12月23日:高木勇夫氏)
日本フランス語フランス文学会書評:cahier No.9, 2012年3月pp.16-18(高岡尚子氏)