先日、シネマ・リサイタル『別れの曲』の催しに参加しました(チラシ参照)。1934年に制作されたショパンに関するドイツ映画『別れの曲』(白黒映画)を鑑賞した後、ピアニストの近藤嘉宏さんのショパン尽くしのリサイタルがありました。映画は、ポーランドでの恋人コンスタンティアとの悲恋、当時ポーランドを占領していたロシアへの抵抗運動によって、フランスに亡命、パリで後の恋人となるジョルジュ・サンドとの出会い、ピアノストとしてすでに名声を博していたリストとの交流が描かれていました。『別れの曲』は、コンスタンティアに捧げた曲ではなく「悲しみ」というタイトルの曲だったそうですが、この映画ではこの曲を彼女と結びつけて、ピアニストとして世に出て行くショパンのために、彼女が身を引く話になっていました。ただ、興味深かったのが、コンスタンティアがおとなしい良家の娘としてではなく、ワルシャワからパリまで乗合馬車で一人で向かうなど、自立した女性として描かれていることで、この時代の映画としては珍しいように思えました。
サンドがショパンをパリで売り出すためにオルレアン公爵夫人の屋敷に招待して、リストと計らってショパンの才能を皆に納得させる場面や、サンドと出会ってすぐにショパンが彼女にのぼせ上がって、マジョルカ島にでかけることになる、といったくだりはかなり史実に反しています。しかも、登場人物全員がドイツ語をしゃべっていて、サンドがドイツ語をしゃべっているのは残念至極でした! ただ、ショパンの「別れの曲」以外にも、「革命」「華麗なる円舞曲」などたくさんの曲が流れ、リストとの「英雄ポロネーズ」の連弾もあって、ショパン音楽を満喫できました。
さらに、近藤さんの演奏も素晴らしく、ショパンの装飾音の多い華麗な曲を見事に弾きこなしておられました。「別れの曲」や「華麗なる円舞曲」「幻想即興曲」などよく知られた曲の他に取り上げられた「エオリアンハープ」は本当にハープのような音色で、「大洋」は海のざわめきが聞こえるほどでした。ショパンの曲は、物悲しい曲が多く、ピアニシモが大事になりますが、近藤さんは繊細に弾いておられました。その一方で、ショパンにはスピードの速い曲、情熱的な曲もあるので、強弱のつけ方が大変難しいと思いますが、その点もうまく弾きこなしていました。ショパン尽くしの楽しい一日となりました。